大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

作者未詳歌

蟋蟀の待ち喜ぶる秋の夜を・・・巻第10-2264

訓読 >>> 蟋蟀(こほろぎ)の待ち喜ぶる秋の夜を寝(ぬ)る験(しるし)なし枕(まくら)と我(わ)れは 要旨 >>> コオロギがあんなに喜んで鳴きたてる秋の夜長なのに、あなたはちっとも来てくれない、私は枕と二人っきりです。 鑑賞 >>> 「蟋蟀に…

をみなへし佐紀沢の辺の・・・巻第7-1346

訓読 >>> をみなへし佐紀沢(さきさは)の辺(へ)の真葛原(まくずはら)いつかも繰(く)りて我(わ)が衣(きぬ)に着む 要旨 >>> 佐紀沢のほとりの葛原よ、いつになったら、糸に繰って私の衣として着ることができるだろうか。 鑑賞 >>> 「草に…

東歌(50)・・・巻第14-3361~3362

訓読 >>> 3361足柄(あしがら)の彼面此面(をてもこのも)にさす罠(わな)のかなるましづみ子ろ我(あ)れ紐(ひも)解く 3362相模嶺(さがむね)の小峰(をみね)見退(みそ)くし忘れ来る妹(いも)が名呼びて我(あ)を音(ね)し泣くな 要旨 >>>…

紫草を草と別く別く・・・巻第12-3099

訓読 >>> 紫草(むらさき)を草と別(わ)く別(わ)く伏(ふ)す鹿(しか)の野は異(こと)にして心は同じ 要旨 >>> 紫草を他の草と区別してそこに寝る鹿のように、私たちは住む所こそは違うけれども、その心持ちは同じだ。 鑑賞 >>> 「寄物陳思…

縵児の悲しみ・・・巻第16-3788~3790

訓読 >>> 3788耳成(みみなし)の池し恨(うら)めし我妹子(わぎもこ)が来つつ潜(かづ)かば水は涸(か)れなむ 3789あしひきの山縵(やまかづら)の子(こ)今日(けふ)行くと我(わ)れに告(つ)げせば帰り来(こ)ましを 3790あしひきの玉縵(た…

風吹けば黄葉散りつつ・・・巻第10-2198~2200

訓読 >>> 2198風吹けば黄葉(もみち)散りつつ少なくも吾(あが)の松原(まつばら)清くあらなくに 2199物思(ものも)ふと隠(こも)らひ居(を)りて今日(けふ)見れば春日(かすが)の山は色づきにけり 2200九月(ながつき)の白露(しらつゆ)負(…

東歌(49)・・・巻第14-3408

訓読 >>> 新田山(にひたやま)嶺(ね)にはつかなな我(わ)に寄そり間(はし)なる子らしあやに愛(かな)しも 要旨 >>> 新田山が他の峰に寄り付かずに一人で立っているように、寝てもいない私との関係を噂されて孤立しているあの子が、本当に愛しく…

母が問はさば風と申さむ・・・巻第11-2364

訓読 >>> 玉垂(たまだれ)の小簾(をす)の隙(すけき)に入り通ひ来(こ)ね たらちねの母が問はさば風と申さむ 要旨 >>> 玉を垂らした簾(すだれ)のすきまからそっと入って通ってきてください。もし母がとがめて尋ねたら、風だと申しましょう。 鑑…

真葛原なびく秋風吹くごとに・・・巻第10-2096

訓読 >>> 真葛原(まくずはら)なびく秋風吹くごとに阿太(あた)の大野の萩(はぎ)の花散る 要旨 >>> 葛が生い茂る原をなびかせて秋風が吹く度に、阿太の野の萩の花が散っていく。 鑑賞 >>> 「花を詠む」歌。「真葛原」の「真」は接頭語、「葛原…

東歌(48)・・・巻第14-3460

訓読 >>> 誰(た)れぞこの屋の戸(と)押(お)そぶる新嘗(にふなみ)に我(わ)が背(せ)を遣(や)りて斎(いは)ふこの戸を 要旨 >>> いったい誰なの、この家の戸をがたがた押し揺さぶるのは。新嘗祭を迎えて夫を遠ざけ、家内で身を清めているこ…

東歌(47)・・・巻第14-3432

訓読 >>> 足柄(あしがり)の吾(わ)を可鶏山(かけやま)のかづの木の吾(わ)をかづさねも門(かづ)さかずとも 要旨 >>> 足柄の、私に心を懸けているという可鶏山のように、私をかどわかして下さい、門(かど)を閉ざしていようとも。 鑑賞 >>>…

君が来まさむ避道にせむ・・・巻第11-2363

訓読 >>> 岡(をか)の崎(さき)廻(た)みたる道(みち)を人な通ひそ ありつつも君が来(き)まさむ避道(よきみち)にせむ 要旨 >>> 岡の向こうを回っていく道を、誰も通らないでほしい。そのままにしておいて、あの人がやってくる特別な道にして…

東歌(46)・・・巻第14-3366

訓読 >>> ま愛(かな)しみさ寝(ね)に我(わ)は行く鎌倉の水無瀬川(みなのせがは)に潮(しほ)満つなむか 要旨 >>> あの子が可愛いので共寝しに行こうと思うが、鎌倉のあの水無瀬川は、今ごろ潮が満ちていることだろうか。 鑑賞 >>> 相模の国…

都辺に君は去にしを・・・巻第12-3183~3185

訓読 >>> 3183都辺(みやこへ)に君は去(い)にしを誰(た)が解(と)けか我(わ)が紐(ひも)の緒(を)の結(ゆ)ふ手たゆきも 3184草枕(くさまくら)旅行く君を人目(ひとめ)多み袖(そで)振らずしてあまた悔(くや)しも 3185まそ鏡手に取り持…

春霞井の上ゆ直に道はあれど・・・巻第7-1256

訓読 >>> 春霞(はるかすみ)井(ゐ)の上ゆ直(ただ)に道はあれど君に逢はむとた廻(もとほ)り来(く)も 要旨 >>> 水汲み場から家にまっすぐ道は通じていますが、あなたにお逢いしたいと思って回り道をしてやって来ました。 鑑賞 >>> 「古歌集…

東歌(45)・・・巻第14-3393

訓読 >>> 筑波嶺(つくはね)のをてもこのもに守部(もりへ)据(す)ゑ母(はは)い守(も)れども魂(たま)ぞ合ひにける 要旨 >>> 筑波嶺のあちらこちらに番人を置いて森を監視するように、母は私を見張っているけれど、私たちの魂は通じ合ってしま…

我が背子は待てど来まさず・・・巻第13-3280~3283

訓読 >>> 3280我(わ)が背子(せこ)は 待てど来まさず 天(あま)の原 振り放(さ)け見れば ぬばたまの 夜(よ)も更(ふ)けにけり さ夜(よ)ふけて あらしの吹けば 立ち待てる 我(わ)が衣手(ころもで)に 降る雪は 凍(こほ)りわたりぬ 今さら…

東歌(44)・・・巻第14-3372

訓読 >>> 相模道(さがむぢ)の余呂伎(よろぎ)の浜の真砂(まなご)なす児(こ)らは愛(かな)しく思はるるかも 要旨 >>> 相模の余呂伎の浜の美しい真砂のように、あの子が愛しく思われてならない。 鑑賞 >>> 相模の国(神奈川県の大部分)の歌…

藤原京より寧楽宮に遷りし時の歌・・・巻第1-79~80

訓読 >>> 79大君(おほきみ)の 命(みこと)畏(かしこ)み 親(にき)びにし 家を置き こもりくの 泊瀬(はつせ)の川に 舟浮けて 我が行く川の 川隈(かはくま)の 八十隅(やそくま)おちず 万(よろづ)たび かへり見しつつ 玉桙(たまほこ)の 道行…

東歌(43)・・・巻第14-3421~3423

訓読 >>> 3421伊香保嶺(いかほね)に雷(かみ)な鳴りそね我(わ)が上(へ)には故(ゆゑ)はなけども子らによりてぞ 3422伊香保風(いかほかぜ)吹く日吹かぬ日ありと言へど我(あ)が恋のみし時なかりけり 3423上(かみ)つ毛野(けの)伊香保の嶺(…

東歌(42)・・・巻第14-3376

訓読 >>> 恋しけば袖(そで)も振らむを武蔵野(むざしの)のうけらが花の色に出(づ)なゆめ[或る本の歌に曰く いかにして恋ひばか妹に武蔵野のうけらが花の色に出(で)ずにあらむ] 要旨 >>> 恋しければ袖も振るものですが、私たちの恋は人に知られ…

東歌(41)・・・巻第14-3365

訓読 >>> 鎌倉の見越(みごし)の崎の岩(いは)崩(く)えの君が悔(く)ゆべき心は持たじ 要旨 >>> 鎌倉の水越の崎は岩が崩れているけれど、あなたが悔いて仲を崩してしまうような心は、決して持ちません。 要旨 >>> 相模の国(神奈川県)の歌。…

あさりする海人娘子らが・・・巻第7-1186

訓読 >>> あさりする海人娘子(あまをとめ)らが袖(そで)通(とほ)り濡(ぬ)れにし衣(ころも)干(ほ)せど乾(かわ)かず 要旨 >>> 藻を刈っている海人の娘らの、袖を通してぐしょ濡れになった衣は、干してもなかなか乾かない。 鑑賞 >>> 「…

東歌(40)・・・巻第14-3504~3506

訓読 >>> 3504春へ咲く藤(ふぢ)の末葉(うらば)のうら安(やす)にさ寝(ぬ)る夜(よ)ぞなき子ろをし思(も)へば 3505うちひさつ宮の瀬川(せがは)のかほ花(ばな)の恋ひてか寝(ぬ)らむ昨夜(きそ)も今夜(こよひ)も 3506新室(にひむろ)の…

東歌(39)・・・巻第14-3501~3503

訓読 >>> 3501安波峰(あはを)ろの峰(を)ろ田に生(お)はるたはみづら引かばぬるぬる我(あ)を言(こと)な絶え 3502我(わ)が目妻(めづま)人は放(さ)くれど朝顔(あさがほ)のとしさへこごと我(わ)は離(さか)るがへ 3503安齊可潟(あせか…

東歌(38)・・・巻第14-3500

訓読 >>> 紫草(むらさき)は根をかも終(を)ふる人の子のうら愛(がな)しけを寝(ね)を終(を)へなくに 要旨 >>> 紫草は根を染料に使い果たすという。が、私は、あの子が愛しくてならないのに、共寝を果たすことができない。 鑑賞 >>> 「紫草…

東歌(37)・・・巻第14-3499

訓読 >>> 岡に寄せ我(わ)が刈る萱(かや)のさね萱(かや)のまことなごやは寝(ね)ろとへなかも 要旨 >>> 陸の方に引き寄せながら刈っている萱のように、あの娘は、ほんに素直に私に寝ようと言ってくれない。 鑑賞 >>> 上3句は「なごや」を導く…

百足らず山田の道を・・・巻第13-3276~3277

訓読 >>> 3276百(もも)足らず 山田(やまだ)の道を 波雲(なみくも)の 愛(うつく)し妻(づま)と 語らはず 別れし来れば 早川の 行きも知らず 衣手(ころもで)の 帰りも知らず 馬(うま)じもの 立ちてつまづき 為(せ)むすべの たづきを知らに …

為むすべのたづきを知らに・・・巻第13-3274~3275

訓読 >>> 3274為(せ)むすべの たづきを知らに 岩が根の こごしき道を 岩床(いはとこ)の 根延(ねば)へる門(かど)を 朝(あした)には 出(い)で居(ゐ)て嘆き 夕(ゆふへ)には 入り居て偲(しの)ひ 白たへの 我(わ)が衣手(ころもで)を 折…

明日よりは我が玉床をうち掃ひ・・・巻第10-2048~2050

訓読 >>> 2048天の川 川門(かはと)に立ちて我(わ)が恋ひし君来ますなり紐(ひも)解き待たむ 2049天の川 川門(かはと)に居(を)りて年月(としつき)を恋ひ来(こ)し君に今夜(こよひ)逢へるかも 2050明日よりは我(わ)が玉床(たまどこ)をう…