大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

作者未詳歌

夕されば君来まさむと・・・巻第11-2588

訓読 >>> 夕(ゆふ)されば君(きみ)来(き)まさむと待ちし夜(よ)のなごりぞ今も寐寝(いね)かてにする 要旨 >>> 夕方になると、あなたがいらっしゃるだろうとお待ちしていた夜の名残なのですね、今もなかなか寝つかれないのは。 鑑賞 >>> 「…

あぢさはふ目は飽かざらね・・・巻第12-2934

訓読 >>> あぢさはふ目は飽(あ)かざらね携(たづさは)り言(こと)とはなくも苦しくありけり 要旨 >>> 近くでいつもお見かけしていながら、手を取り合ってお話できないのは苦しいことです。 鑑賞 >>> 「正述心緒(ありのままに思いを述べた歌)…

鳴き行くなるは誰れ呼子鳥・・・巻第10-1827~1828

訓読 >>> 1827春日(かすが)なる羽(は)がひの山ゆ佐保(さほ)の内へ鳴き行くなるは誰(た)れ呼子鳥(よぶこどり)1828答へぬにな呼び響(と)めそ呼子鳥(よぶこどり)佐保(さほ)の山辺(やまへ)を上り下りに 要旨 >>> 〈1827〉春日の羽がいの…

石城にも隠らばともに・・・巻第16-3806

訓読 >>> 事しあらば小泊瀬山(をはつせやま)の石城(いはき)にも隠(こも)らばともにな思ひ我(わ)が背(せ) 要旨 >>> 二人の仲を妨げるようなことが起こったら、あの泊瀬山の岩屋に葬られるなら葬られるで、私もずっと一緒にいます。ですから心…

東歌(28)・・・巻第14-3353~3354

訓読 >>> 3353麁玉(あらたま)の伎倍(きへ)の林に汝(な)を立てて行きかつましじ寐(い)を先立(さきだ)たね 3354伎倍人(きへひと)の斑衾(まだらぶすま)に綿(わた)さはだ入りなましもの妹(いも)が小床(をどこ)に 要旨 >>> 〈3353〉麁…

くはし妹に鮎を惜しみ・・・巻第13-3330~3332

訓読 >>> 3330こもくりの 泊瀬(はつせ)の川の 上(かみ)つ瀬に 鵜(う)を八(や)つ潜(かづ)け 下(しも)つ瀬に 鵜を八つ潜け 上つ瀬の 鮎(あゆ)を食(く)はしめ 下つ瀬の 鮎を食はしめ くはし妹(いも)に 鮎を惜(を)しみ くはし妹に 鮎を惜…

物思はず道行く行くも・・・巻第13-3305~3308

訓読 >>> 3305物思(ものも)はず 道行く行くも 青山を 振りさけ見れば つつじ花(はな) にほへ娘子(をとめ) 桜花(さくらばな) 栄(さか)へ娘子(をとめ) 汝(な)れをそも 我(わ)れに寄すといふ 我(わ)れをもそ 汝(な)れに寄すといふ 荒山…

妹すらを人妻なりと聞けば悲しも・・・巻第12-3115~3116

訓読 >>> 3115息の緒(を)に我(あ)が息づきし妹(いも)すらを人妻なりと聞けば悲しも3116我(わ)が故(ゆゑ)にいたくなわびそ後(のち)つひに逢はじと言ひしこともあらなくに 要旨 >>> 〈3115〉命のかぎり恋い焦がれて苦しく溜め息ついていたあ…

海石榴市の八十の衢に立ち平し・・・巻第12-2951

訓読 >>> 海石榴市(つばいち)の八十(やそ)の衢(ちまた)に立ち平(なら)し結びし紐(ひも)を解(と)かまく惜しも 要旨 >>> あの海石榴市の里の道のたくさん交わる辻で、あちこち歩き回り出逢ったあの人が、結んでくれた紐を解くのは、あまりに…

逢へる時さへ面隠しする・・・巻第12-2916

訓読 >>> 玉勝間(たまかつま)逢はむといふは誰(たれ)なるか逢へる時さへ面隠(おもかく)しする 要旨 >>> 私に逢おうといったのは一体誰なのだろう、それなのに、せっかく逢ったのに顔を隠したりなんかして。 鑑賞 >>> 男が女に言った歌。「玉…

肩のまよひは誰れか取り見む・・・巻第7-1265

訓読 >>> 今年行く新防人(にひさきもり)が麻衣(あさごろも)肩のまよひは誰(た)れか取り見む 要旨 >>> 今年送られていく新しい防人の麻の衣の肩のほつれは、いったい誰が繕ってやるのだろうか。 鑑賞 >>> 「新防人」は、新しく徴発されて筑紫…

国のはたてに咲きにける桜の花の・・・巻第8-1429~1430

訓読 >>> 1429娘子(をとめ)らが かざしのために 風流士(みやびを)の 縵(かづら)のためと 敷きませる 国のはたてに 咲きにける 桜の花の にほひはもあなに1430去年(こぞ)の春(はる)逢へりし君に恋ひにてし桜の花は迎へ来(く)らしも 要旨 >>…

東歌(27)・・・巻第14-3459

訓読 >>> 稲つけば皹(かか)る我(あ)が手を今夜(こよひ)もか殿(との)の若子(わくご)が取りて嘆かむ 要旨 >>> 稲をついて赤くひび割れた私の手を、今夜もまたお屋敷の若様がお取りになって、かわいそうにとお嘆きになるのでしょうか。 鑑賞 >…

いにしへの神の時より逢ひけらし・・・巻第13-3289~3290

訓読 >>> 3289み佩(は)かしを 剣(つるぎ)の池の 蓮葉(はちすば)に 溜(た)まれる水の 行くへなみ 我(わ)がする時に 逢ふべしと 逢ひたる君を な寐寝(いね)そと 母聞こせども 我(あ)が心 清隅(きよすみ)の池の 池の底 我(わ)れは忘れじ …

玉たすき懸けぬ時なく我が思へる・・・巻第13-3286~3287

訓読 >>> 3286玉たすき 懸(か)けぬ時なく 我(あ)が思(おも)へる 君によりては 倭文幣(しつぬさ)を 手に取り持ちて 竹玉(たかたま)を しじに貫(ぬ)き垂(た)れ 天地(あめつち)の 神をそ我(あ)が祈(の)む いたもすべなみ 3287天地(あめ…

心はよしゑ君がまにまに・・・巻第13-3284~3285

訓読 >>> 3284菅(すが)の根の ねもころごろに 我(あ)が思(おも)へる 妹(いも)によりては 言(こと)の忌みも なくありこそと 斎瓮(いはひへ)を 斎(いは)ひ掘り据(す)ゑ 竹玉(たかたま)を 間(ま)なく貫(ぬ)き垂(た)れ 天地(あめつ…

東歌(26)・・・巻第14-3455

訓読 >>> 恋(こひ)しけば来ませ我が背子(せこ)垣(かき)つ柳(やぎ)末(うれ)摘(つ)み枯らし我(わ)れ立ち待たむ 要旨 >>> 私が恋しいと言うのなら、いらして下さい、あなた。垣根の柳の枝先を枯れてしまうほど摘みながら、立ち続けてお待ち…

東歌(25)・・・巻第14-3413

訓読 >>> 利根川(とねがは)の川瀬も知らず直(ただ)渡り波にあふのす逢へる君かも 要旨 >>> 利根川を渡る浅瀬の場所も分からないままむやみに渡り、だしぬけに波に遭ったように、思いがけずも逢っているあなたであるよ。 鑑賞 >>> 上野(かみつ…

東歌(24)・・・巻第14-3412

訓読 >>> 上(かみ)つ毛野(けの)久路保(くろほ)の嶺(ね)ろの葛葉(くずは)がた愛(かな)しけ子らにいや離(ざか)り来(く)も 要旨 >>> 久路保の嶺の葛葉の蔓(つる)が別れて伸びていくように、愛しい妻といよいよ遠ざかって行くことだ。 …

東歌(23)・・・巻第14-3411

訓読 >>> 多胡(たご)の嶺(ね)に寄(よ)せ綱(づな)延(は)へて寄すれどもあに来(く)やしづしその顔(かほ)よきに 要旨 >>> 多胡の嶺に綱をかけて引き寄せようとしても、ああ悔しい、びくともしない、その顔が美人ゆえに。 鑑賞 >>> 上野…

玉梓の使ひも来ねば・・・巻第16-3811~3813

訓読 >>> 3811さ丹(に)つらふ 君がみ言(こと)と 玉梓(たまづさ)の 使(つか)ひも来(こ)ねば 思ひ病(や)む 我(あ)が身ひとつそ ちはやぶる 神にもな負(お)ほせ 占部(うらへ)すゑ 亀(かめ)もな焼きそ 恋ひしくに 痛き我(あ)が身そ い…

東歌(22)・・・巻第14-3436~3437

訓読 >>> 3436しらとほふ小新田山(をにひたやま)の守(も)る山のうら枯(が)れせなな常葉(とこは)にもがも 3437陸奥(みちのく)の安達太良(あだたら)真弓(まゆみ)はじき置きて反(せ)らしめきなば弦(つら)はかめかも 要旨 >>> 〈3436〉…

相見ては面隠さるるものからに・・・巻第11-2554

訓読 >>> 相(あひ)見ては面(おも)隠さるるものからに継(つ)ぎて見まくの欲(ほ)しき君かも 要旨 >>> 顔を合わせると、恥ずかしくて顔を隠したくなるのですが、それなのに、すぐにまた見たいと思う、あなたなのです。 鑑賞 >>> 結婚後間もな…

東歌(21)・・・巻第14-3386

訓読 >>> にほ鳥の葛飾(かづしか)早稲(わせ)を饗(にへ)すともその愛(かな)しきを外(と)に立てめやも 要旨 >>> 葛飾の早稲を神に捧げる新嘗祭の夜であっても、愛しいあの人を外に立たせておくことなどできない。 鑑賞 >>> 下総の国の歌。…

月草のうつろふ心・・・巻第12-3058~3059

訓読 >>> 3058うちひさす宮にはあれど月草(つきくさ)のうつろふ心(こころ)我(わ)が思はなくに 3059百(もも)に千(ち)に人は言ふとも月草(つきくさ)のうつろふ心 我(わ)れ持ためやも 要旨 >>> 〈3058〉華やかな宮仕えをしていますが、色の…

梓弓末は知らねど・・・巻第12-3149~3150

訓読 >>> 3149梓弓(あづさゆみ)末(すゑ)は知らねど愛(うるは)しみ君にたぐひて山道(やまぢ)越え来(き)ぬ 3150霞(かすみ)立つ春の長日(ながひ)を奥処(おくか)なく知らぬ山道(やまぢ)を恋ひつつか来(こ)む 要旨 >>> 〈3149〉行く末…

立ちしなふ君が姿を忘れずは・・・巻第20-4440~4441

訓読 >>> 4440足柄(あしがら)の八重山(やへやま)越えていましなば誰(た)れをか君と見つつ偲(しの)はむ 4441立ちしなふ君が姿を忘れずは世の限りにや恋ひわたりなむ 要旨 >>> 〈4440〉足柄の八重に重なる山々を越えて行ってしまわれたら、誰を…

我妹子は釧にあらなむ・・・巻第9-1766

訓読 >>> 我妹子(わぎもこ)は釧(くしろ)にあらなむ左手の我(わ)が奥(おく)の手に巻きて去(い)なましを 要旨 >>> あなたが釧であったらいいのに。そしたら、左手の私の大事な奥の手に巻いて旅立とうものを。 鑑賞 >>> 振田向宿祢(ふるの…

我が恋ひ死なば誰が名ならむも・・・巻第12-3105~3106

訓読 >>> 3105人目(ひとめ)多み直(ただ)に逢はずてけだしくも我(あ)が恋ひ死なば誰(た)が名ならむも 3106相(あひ)見まく欲しきがためは君よりも我(わ)れぞまさりていふかしみする 要旨 >>> 〈3105〉人目が多いからといってじかに逢ってく…

聞かずして黙もあらましを・・・巻第13-3303~3304

訓読 >>> 3303里人(さとびと)の 我(あ)れに告(つ)ぐらく 汝(な)が恋ふる 愛(うるは)し夫(づま)は 黄葉(もみちば)の 散りまがひたる 神奈備(かむなび)の この山辺(やまへ)から[或る本に云く、その山辺] ぬばたまの 黒馬(くろま)に乗…