大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

大伴坂上郎女の歌

世の常に聞けば苦しき呼子鳥・・・巻第8-1447

訓読 >>> 世の常(つね)に聞けば苦しき呼子鳥(よぶこどり)声なつかしき時にはなりぬ 要旨 >>> ふだんは切なく苦しく聞こえる呼子鳥の、その鳴き声もなつかしく聞かれる春になってきた。 鑑賞 >>> 大伴坂上郎女の歌。「呼子鳥」は、カッコウとさ…

常世にと我が行かなくに・・・巻第4-723~724

訓読 >>> 723常世(とこよ)にと 我(わ)が行かなくに 小金門(をかなと)に もの悲(がな)しらに 思へりし 我(あ)が子の刀自(とじ)を ぬばたまの 夜昼(よるひる)といはず 思ふにし 我(あ)が身は痩せ(や)せぬ 嘆くにし 袖(そで)さへ濡(ぬ…

風交り雪は降るとも・・・巻第8-1445

訓読 >>> 風(かぜ)交(まじ)り雪は降るとも実にならぬ我家(わぎへ)の梅を花に散らすな 要旨 >>> 風交りの雪が降ることもあろうが、私の家の、まだ実になっていない梅の花を散らさないでおくれ。 鑑賞 >>> 大伴坂上郎女の歌。作者の娘(坂上大…

大伴坂上郎女の「神を祭る歌」・・・巻第3-379~380

訓読 >>> 379ひさかたの 天(あま)の原より 生(あ)れ来(きた)る 神の命(みこと) 奥山の 賢木(さかき)の枝に 白香(しらか)付く 木綿(ゆふ)取り付けて 斎瓮(いはひへ)を 斎(いは)ひ堀りすゑ 竹玉(たかたま)を 繁(しじ)に貫(ぬ)き垂…

何かここだく我が恋ひ渡る・・・巻第4-656~658

訓読 >>> 656我(わ)れのみぞ君には恋ふる我(わ)が背子(せこ)が恋ふといふことは言(こと)のなぐさぞ657思はじと言ひてしものをはねず色のうつろひやすき我(あ)が心かも658思へども験(しるし)もなしと知るものを何かここだく我(あ)が恋ひ渡る…

大伴坂上郎女が藤原麻呂に答えた歌・・・巻第4-525~528

訓読 >>> 525佐保川(さほがは)の小石踏み渡りぬばたまの黒馬(くろま)の来る夜は年にもあらぬか 526千鳥鳴く佐保の川瀬のさざれ波やむ時もなし我(あ)が恋ふらくは 527来(こ)むと言ふも来(こ)ぬ時あるを来(こ)じと言ふを来(こ)むとは待たじ来…

大伴坂上郎女が大伴家持に贈った歌・・・巻第17-3927~3930

訓読 >>> 3927草枕(くさまくら)旅行く君を幸(さき)くあれと斎瓮(いはひべ)据(す)ゑつ我(あ)が床(とこ)の辺(へ)に 3928今のごと恋しく君が思ほえばいかにかもせむするすべのなさ 3929旅に去(い)にし君しも継(つ)ぎて夢(いめ)に見ゆ我…

大伴家持と大伴坂上郎女の歌・・・巻第8-1619~1620

訓読 >>> 1619玉桙(たまほこ)の道は遠けどはしきやし妹(いも)を相(あひ)見に出でてぞ我(あ)が来(こ)し1620あらたまの月立つまでに来ませねば夢(いめ)にし見つつ思ひそ我(あ)がせし 要旨 >>> 〈1619〉道のりは遠くても、いとおしいあなた…

橘をやどに植ゑ生ほし・・・巻第3-410~411

訓読 >>> 410橘(たちばな)をやどに植ゑ生(お)ほし立ちて居て後(のち)に悔ゆとも験(しるし)あらめやも 411我妹子(わぎもこ)がやどの橘(たちばな)いと近く植ゑてし故(ゆゑ)に成(な)らずはやまじ 要旨 >>> 〈410〉橘の木を庭に植え育てて…

春日野を背向に見つつ・・・巻第3-460~461

訓読 >>> 460栲角(たくづの)の 新羅(しらき)の国ゆ 人言(ひとごと)を よしと聞かして 問ひ放(さ)くる 親族兄弟(うがらはらがら) なき国に 渡り来まして 大君(おほきみ)の 敷きます国に うちひさす 都しみみに 里家(さといへ)は さはにあれ…

心には忘るる日なく思へども・・・巻第4-646~649

訓読 >>> 646ますらをの思ひわびつつ度(たび)まねく嘆く嘆きを負(お)はぬものかも647心には忘るる日なく思へども人の言(こと)こそ繁(しげ)き君にあれ648相(あひ)見ずて日(け)長くなりぬこの頃はいかに幸(さき)くやいふかし我妹(わぎも)64…

恋ひ恋ひて逢へる時だに・・・巻第4-661

訓読 >>> 恋ひ恋ひて逢へる時だに愛(うつく)しき言(こと)尽くしてよ長くと思はば 要旨 >>> 恋して恋して、やっと逢えた時くらい、ありったけの言葉を言い尽くして下さい。これからも二人の仲を長く続けようと思うなら。 鑑賞 >>> ようやく夫に…

咲く花もをそろはうとし・・・巻第8-1548

訓読 >>> 咲く花もをそろはうとしおくてなる長き心になほ及(し)かずけり 要旨 >>> 咲く花は色々ですが、せっかちに咲く花はあまり好きになれません。ゆっくり咲く花の、息の長い変わらぬ心には及びません。 鑑賞 >>> 大伴坂上郎女の歌。「をそろ…

磨ぎし心をゆるしてば・・・巻第4-673~674

訓読 >>> 673まそ鏡(かがみ)磨(と)ぎし心をゆるしてば後(のち)に言ふとも験(しるし)あらめやも 674真玉(またま)つくをちこち兼ねて言(こと)は言へど逢ひて後(のち)こそ悔(くい)にはありといへ 要旨 >>> 〈673〉まそ鏡のように清く研ぎ…

高円山に迫めたれば・・・巻第6-1028

訓読 >>> ますらをの高円山(たかまとやま)に迫(せ)めたれば里(さと)に下り来(け)るむざさびぞこれ 要旨 >>> 勇士たちが高円山で追い詰めましたので、里に下りてきたムササビでございます、これは。 鑑賞 >>> 大伴坂上郎女の歌。題詞に次の…

姫百合の知らえぬ恋は・・・巻第8-1500

訓読 >>> 夏の野の茂みに咲ける姫百合(ひめゆり)の知らえぬ恋は苦しきものぞ 要旨 >>> 夏の野の繁みににひっそりと咲いている姫百合、それが人に気づいてもらえないように、あの人に知ってもらえない恋は苦しいものです。 鑑賞 >>> 大伴坂上郎女…

佐保風はいたくな吹きそ・・・巻第6-979

訓読 >>> 我が背子が着(け)る衣(きぬ)薄し佐保風(さほかぜ)はいたくな吹きそ家に至るまで 要旨 >>> 私のあの人の着ている衣は薄いので、佐保の風はきつく吹かないでください、家にあの人が帰りつくまでは。 鑑賞 >>> 大伴坂上郎女の家を、甥…

三日月の眉根掻き・・・巻第6-993~994

訓読 >>> 993月立ちてただ三日月の眉根(まよね)掻(か)き日長く恋ひし君に逢へるかも 994ふりさけて若月(みかづき)見ればひと目見し人の眉引(まよび)き思ほゆるかも 要旨 >>> 〈993〉姿をあらわしてたった三日という細い月のかたちの眉を掻いて…