大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

巻第1

玉藻刈る沖辺は漕がじ・・・巻第1-72

訓読 >>> 玉藻(たまも)刈る沖辺(おきへ)は漕(こ)がじ敷栲(しきたへ)の枕のあたり忘れかねつも 要旨 >>> 海女たちが玉藻を刈っている沖のあたりには舟を漕いでいくまい。昨夜旅の宿で枕を共にした女のことが、忘れられないから。 鑑賞 >>> …

我が背子はいづく行くらむ・・・巻第1-43~44

訓読 >>> 43我(わ)が背子(せこ)はいづく行くらむ沖つ藻(も)の名張(なばり)の山を今日(けふ)か越ゆらむ 44我妹子(わぎもこ)をいざ見(み)の山を高みかも大和(やまと)の見えぬ国遠みかも 要旨 >>> 〈43〉今ごろ夫はどのあたりを旅してい…

持統天皇の伊勢行幸の折、都に残った柿本人麻呂が作った歌・・・巻第1-40~42

訓読 >>> 40嗚呼見(あみ)の浦に船乗りすらむをとめらが玉裳(たまも)の裾(すそ)に潮(しほ)満つらむか 41釧(くしろ)着く手節(たふし)の崎に今日(けふ)もかも大宮人(おほみやひと)の玉藻(たまも)刈るらむ 42潮騒(しほさゐ)に伊良虞(い…

大丈夫のさつ矢手挟み・・・巻第1-61

訓読 >>> 大丈夫(ますらを)のさつ矢(や)手挟(たばさ)み立ち向ひ射(い)る圓方(まとかた)は見るにさやけし 要旨 >>> ますらおが、矢を手挟んで立ち向かい射貫く的、その名の圓方の浜は見るからに清々しい。 鑑賞 >>> 舎人娘子(とねりのお…

葦べ行く鴨の羽がひに・・・巻第1-64

訓読 >>> 葦(あし)べ行く鴨(かも)の羽(は)がひに霜(しも)降りて寒き夕べは大和し思ほゆ 要旨 >>> 葦が生い茂る水面を行く鴨の羽がいに霜が降っている。このような寒い夕暮れは、大和のことがしみじみ思い出される。 鑑賞 >>> 志貴皇子の歌…

山辺の御井を見がてり・・・巻第1-81~83

訓読 >>> 81山辺(やまのへ)の御井(みゐ)を見がてり神風(かむかぜ)の伊勢娘子(いせをとめ)どもあひ見つるかも 82うらさぶる心さまねしひさかたの天(あま)のしぐれの流らふ見れば 83海(わた)の底(そこ)沖つ白波(しらなみ)龍田山(たつたや…

軍王の歌・・・巻第1-5~6

訓読 >>> 5霞(かすみ)立つ 長き春日(はるひ)の 暮れにける わづきも知らず むら肝(ぎも)の 心を痛み ぬえこ鳥 うら泣き居(を)れば 玉たすき 懸(か)けのよろしく 遠つ神 我が大君(おほきみ)の 行幸(いでまし)の 山越す風の ひとり居(を)る…

大和には鳴きてか来らむ呼子鳥・・・巻第1-70

訓読 >>> 大和には鳴きてか来(く)らむ呼子鳥(よぶこどり)象(きさ)の中山(なかやま)呼びそ越(こ)ゆなる 要旨 >>> 大和には今ごろ呼子鳥が鳴いて来ているのだろうか。象の中山を人を呼びながら鳴き渡っている声が聞こえる。 鑑賞 >>> 高市…

我が背子がい立たせりけむ・・・巻第1-9

訓読 >>> 莫囂円隣之大相七兄爪謁気 我が背子がい立たせりけむ厳橿(いつかし)が本(もと) 要旨 >>> ・・・・・・愛するあなたが立っていた、山麓の神聖な樫の木のもと。 鑑賞 >>> 額田王(ぬかだのおおきみ)の「紀の温泉に幸せる時に、額田王の作る」…

中大兄皇子の大和三山の歌・・・巻第1-13~15

訓読 >>> 13香具山(かぐやま)は 畝火(うねび)を愛(を)しと 耳梨(みみなし)と 相(あひ)あらそひき 神代(かみよ)より 斯(か)くにあるらし 古昔(いにしへ)も 然(しか)にあれこそ うつせみも 妻(つま)を あらそふらしき 14香具山(かぐや…

この洲崎廻に鶴鳴くべしや・・・巻第1-71

訓読 >>> 大和(やまと)恋ひ寐(い)の寝(ね)らえぬに心なくこの洲崎廻(すさきみ)に鶴(たづ)鳴くべしや 要旨 >>> 大和が恋しくて寝るに寝られないのに、思いやりもなく、この洲崎あたりで鶴が鳴いてよいものだろうか。 鑑賞 >>> 忍坂部乙麻…

いづくにか船泊てすらむ・・・巻第1-58

訓読 >>> いづくにか船(ふね)泊(はて)すらむ安礼(あれ)の埼(さき)漕(こ)ぎたみ行きし棚(たな)無し小舟(をぶね) 要旨 >>> 今ごろいったい何処で舟どまりしているのだろう、安礼の崎を先ほど漕ぎめぐっていった、船棚のない小さな舟は。 …

額田王が近江の国に下った時に作った歌・・・巻第1-17~19

訓読 >>> 17味酒(うまさけ) 三輪(みわ)の山 あをによし 奈良の山の 山の際(ま)に い隠るまで 道の隈(くま) い積もるまでに つばらにも 見つつ行かむを しばしばも 見放(みさ)けむ山を 情(こころ)なく 雲の 隠さふねしや 18三輪山をしかも隠す…

君が代も我が代も知るや・・・巻第1-10~12

訓読 >>> 10君が代(よ)も我(わ)が代も知るや磐代(いはしろ)の岡の草根(くさね)をいざ結びてな 11吾背子(わがせこ)は仮廬(かりほ)作らす草なくば小松(こまつ)が下の草を刈(か)らさね 12吾(わ)が欲(ほ)りし野島(のしま)は見せつ底ふ…

持統天皇の吉野行幸の折、柿本人麻呂が作った歌・・・巻第1-38~39

訓読 >>> 38やすみしし わが大君(おほきみ) 神(かむ)ながら 神さびせすと 吉野川 激(たぎ)つ河内(かふち)に 高殿(たかどの)を 高(たか)知りまして 登り立ち 国見をせせば 畳(たたな)はる 青垣山(あをかきやま) 山神(やまつみ)の 奉(ま…

ますらをの鞆の音すなり・・・巻第1-76~77

訓読 >>> 76ますらをの鞆(とも)の音(おと)すなり物部(もののべ)の大臣(おほまへつきみ)楯(たて)立つらしも 77吾が大君(おほきみ)ものな思ほし皇神(すめかみ)の継ぎて賜(たま)へる我(われ)なけなくに 要旨 >>> 〈76〉勇ましい男子た…

荒れたる京見れば悲しも・・・巻第1-32~33

訓読 >>> 32古(いにしへ)の人に我(わ)れあれや楽浪(ささなみ)の古き京(みやこ)を見れば悲しき 33楽浪(ささなみ)の国つ御神(みかみ)のうらさびて荒れたる京(みやこ)見れば悲しも 要旨 >>> 〈32〉私は遥かなる古(いにしえ)の人なのだろ…

文武天皇の御製歌・・・巻第1-74

訓読 >>> み吉野の山の下風(あらし)の寒けくにはたや今夜(こよひ)も我(わ)が独(ひと)り寝む 要旨 >>> 吉野の山から吹き下ろす風がこんなにも肌寒いのに、もしや今夜も私はたった独りで寝るのだろうか。 鑑賞 >>> 題詞に「大行天皇、吉野の…

雄略天皇の御製歌・・・巻第1-1

訓読 >>> 籠(こ)もよ み籠(こ)持ち 掘串(ふくし)もよ み掘串(ふくし)持ち この岳(をか)に 菜(な)摘(つ)ます児(こ) 家(いへ)告(の)らせ 名告らさね そらみつ 大和の国は おしなべて われこそ居(を)れ しきなべて われこそ座(いま)…

宵に逢ひて朝面無み・・・巻第1-60

訓読 >>> 宵(よひ)に逢ひて朝(あした)面(おも)無(な)み名張(なばり)にか日(け)長き妹(いも)が廬(いほ)りせりけむ 要旨 >>> 宵に共寝をして、翌朝恥ずかしくて会わせる顔がなく、隠(なば)ると言う、その名張で、旅に出て久しい妻は仮…

額田王が春秋の優劣を論じた歌・・・巻第1-16

訓読 >>> 冬こもり 春さり来れば 鳴かざりし 鳥も来(き)鳴きぬ 咲かざりし 花も咲けれど 山を茂(し)み 入りても取らず 草深み 取りても見ず 秋山の 木の葉を見ては 黄葉(もみち)をば 取りてぞ偲(しの)ふ 青きをば 置きてぞ嘆く そこし恨めし 秋山…

宇治の宮処の仮廬し思ほゆ・・・巻第1-7

訓読 >>> 秋の野(ぬ)のみ草刈り葺(ふ)き宿れりし宇治(うぢ)の宮処(みやこ)の仮廬(かりほ)し思ほゆ 要旨 >>> かつて天皇の行幸に御伴をして、山城の宇治で、秋の草を刈って葺いた行宮(あんぐう)に宿ったときのことが思い出されます。 鑑賞 …

藤原の宮の御井の歌・・・巻第1-52~53

訓読 >>> 52やすみしし わご大君 高照らす 日の皇子(みこ) あらたへの 藤井が原に 大御門(おほみかど) 始めたまひて 埴安(はにやす)の 堤(つつみ)の上に あり立たし 見したまへば 大和の 青香具山(あをかぐやま)は 日の経(たて)の 大き御門(…

大海人皇子の歌・・・巻第1-25

訓読 >>> み吉野の 耳我(みみが)の嶺(みね)に 時なくぞ 雪は降りける 間(ま)無くぞ 雨は振りける その雪の 時なきがごと その雨の 間なきがごと 隈(くま)もおちず 思ひつつぞ来し その山道(やまみち)を 要旨 >>> 吉野の耳我の山には、時とな…

藤原宮の労役に従事した民の作った歌・・・巻第1-50

訓読 >>> やすみしし 我(わ)が大君(おほきみ) 高(たか)照らす 日の皇子(みこ) あらたへの 藤原が上(うへ)に 食(を)す国を 見(め)したまはむと みあらかは 高知らさむと 神(かむ)ながら 思ほすなへに 天地(あめつち)も 依りてあれこそ …

あかねさす紫野行き標野行き・・・巻第1-20~21

訓読 >>> 20あかねさす紫野(むらさきの)行き標野(しめの)行き野守(のもり)は見ずや君が袖(そで)振る 21紫草(むらさき)のにほへる妹(いも)を憎くあらば人妻(ひとづま)ゆゑにあれ恋ひめやも 要旨 >>> 〈20〉茜色に輝く紫草が栽培されてい…

宇智の大野に馬並めて・・・巻第1-3~4

訓読 >>> 3やすみしし わが大君(おほきみ)の 朝(あした)には とり撫(な)でたまひ 夕(ゆふへ)には い倚(よ)り立たしし 御執(みと)らしの 梓(あづさ)の弓の 中弭(なかはず)の 音すなり 朝猟(あさかり)に 今立たすらし 暮猟(ゆふかり)に…

引馬野ににほふ榛原・・・巻第1-57

訓読 >>> 引馬野(ひくまの)ににほふ榛原(はりはら)入り乱れ衣(ころも)にほはせ旅のしるしに 要旨 >>> 引馬野に色づいている榛の原、さあ、この中にみんな入り乱れて衣を艶やかに染めようではないか、旅の記念(しるし)に。 鑑賞 >>> 長忌寸…

うつせみの命を惜しみ・・・巻第1-23~24

訓読 >>> 23打麻(うちそ)を麻続王(をみのおほきみ)海人(あま)なれや伊良虞(いらご)の島の玉藻(たまも)刈ります 24うつせみの命(いのち)を惜(を)しみ波に濡(ぬ)れ伊良虞(いらご)の島の玉藻(たまも)刈り食(は)む 要旨 >>> 〈23〉…

飛ぶ鳥の明日香の里を・・・巻第1-78

訓読 >>> 飛ぶ鳥の明日香(あすか)の里を置きて去(い)なば君があたりは見えずかもあらむ 要旨 >>> 明日香の里をあとにして、奈良の都に行ってしまえば、あなたが住んでいたところは見えなくなってしまうのか。 鑑賞 >>> 和銅3年(710年)の2月に…