巻第16
訓読 >>> 射(い)ゆ鹿(しし)を認(つな)ぐ川辺(かはへ)のにこ草(ぐさ)の身の若(わか)かへにさ寝(ね)し子らはも 要旨 >>> 射られた手負い鹿の跡を追っていくと、川辺ににこ草が生えていた。そのにこ草のように若かった日に、あの子と寝たの…
訓読 >>> 3887天(あめ)にあるやささらの小野(をの)に茅草(ちがや)刈り草(かや)刈りばかに鶉(うづら)を立つも3888沖つ国うしはく君の塗(ぬ)り屋形(やかた)丹塗(にぬ)りの屋形(やかた)神の門(と)渡る3889人魂(ひとだま)のさ青(を)…
訓読 >>> 池神(いけがみ)の力士舞(りきしまひ)かも白鷺(しらさぎ)の桙(ほこ)啄(く)ひ持ちて飛び渡(わた)るらむ 要旨 >>> 池の神が演じる力士舞なのだろうか。白鷺が桙を持つように枝をくわえて飛んでいくよ。 鑑賞 >>> 長忌寸意吉麻呂…
訓読 >>> 3853石麻呂(いしまろ)に我(わ)れ物申す夏痩(なつや)せによしといふものぞ鰻(むなぎ)捕(と)り食(め)せ 3854痩(や)す痩すも生けらばあらむをはたやはた鰻(むなぎ)を捕ると川に流るな 要旨 >>> 〈3853〉石麻呂さんにあえて物申…
訓読 >>> 事しあらば小泊瀬山(をはつせやま)の石城(いはき)にも隠(こも)らばともにな思ひ我(わ)が背(せ) 要旨 >>> 二人の仲を妨げるようなことが起こったら、あの泊瀬山の岩屋に葬られるなら葬られるで、私もずっと一緒にいます。ですから心…
訓読 >>> 3842童(わらは)ども草はな刈(か)りそ八穂蓼(やほたで)を穂積(ほづみ)の朝臣(あそ)が腋草(わきくさ)を刈れ 3843いづくにぞま朱(そほ)掘る岡 薦畳(こもたたみ)平群(へぐり)の朝臣(あそ)が鼻の上を掘れ 要旨 >>> 〈3842〉お…
訓読 >>> 3811さ丹(に)つらふ 君がみ言(こと)と 玉梓(たまづさ)の 使(つか)ひも来(こ)ねば 思ひ病(や)む 我(あ)が身ひとつそ ちはやぶる 神にもな負(お)ほせ 占部(うらへ)すゑ 亀(かめ)もな焼きそ 恋ひしくに 痛き我(あ)が身そ い…
訓読 >>> 弥彦(いやひこ)おのれ神(かむ)さび青雲(あをくも)のたなびく日すら小雨(こさめ)そほ降る [一云 あなに神さび] 要旨 >>> 弥彦の山はおのずと神々しくて(ほんとうに神々しくて)、青雲のたなびくこんな晴れた日ですら、小雨がしとしと…
訓読 >>> 商返(あきかへ)しめすとの御法(みのり)あらばこそ我(あ)が下衣(したごろも)返し給(たま)はめ 要旨 >>> 契約を反古にしてもかまわないという法令があるのでしたら、私がさしあげた形見の下着をお返し下さるのも分かりますが・・・。 鑑…
訓読 >>> いとこ 汝背(なせ)の君 居(を)り居(を)りて 物にい行くとは 韓国(からくに)の 虎(とら)といふ神を 生け捕りに 八(や)つ捕り持ち来(き) その皮を 畳(たたみ)に刺(さ)し 八重畳(やへたたみ) 平群(へぐり)の山に 四月(うづ…
訓読 >>> 一二(いちに)の目のみにはあらず五六三四(ごろくさむし)さへありけり双六(すごろく)のさえ 要旨 >>> 一二の目だけでなく、五、六に加え、三、四の目さえあるのだからな、双六のサイコロには。 鑑賞 >>> 「双六(すごろく)の賽(さ…
訓読 >>> 3814白玉(しらたま)は緒絶(をだ)えしにきと聞きしゆゑにその緒(を)また貫(ぬ)き我(わ)が玉にせむ 3815白玉(しらたま)の緒絶(をだ)えはまこと然(しか)れどもその緒(を)また貫(ぬ)き人持ち去(い)にけり 要旨 >>> 〈3814…
訓読 >>> 3865荒雄(あらを)らは妻子(めこ)が業(なり)をば思はずろ年(とし)の八年(やとせ)を待てど来(き)まさず 3866沖つ鳥(とり)鴨(かも)とふ船の帰り来(こ)ば也良(やら)の崎守(さきもり)早く告げこそ 3867沖つ鳥(とり)鴨(かも…
訓読 >>> 3860大君(おほきみ)の遣はさなくにさかしらに行きし荒雄(あらを)ら沖に袖(そで)振る 3861荒雄(あらを)らを来(こ)むか来(こ)じかと飯(いひ)盛(も)りて門(かど)に出で立ち待てど来まさず 3862志賀(しか)の山いたくな伐(き)…
訓読 >>> 奈良山(ならやま)の児手柏(このてがしは)の両面(ふたおも)にかにもかくにも侫人(こびひと)の伴(とも) 要旨 >>> 奈良山の児の手柏のように、表と裏の顔を、その場次第で使い分けては、巧みにへつらってばかりいる輩よ。 鑑賞 >>>…
訓読 >>> 味飯(うまいひ)を水に醸(か)みなし我(わ)が待ちし効(かひ)はさね無(な)し直(ただ)にしあらねば 要旨 >>> おいしいご飯を醸(かも)してお酒をつくって待っていましたが、全く甲斐がありませんでした。あなたが直接来るわけではな…
訓読 >>> 波羅門(ばらもん)の作れる小田(をだ)を食(は)む烏(からす)瞼(まぶた)腫(は)れて幡桙(はたほこ)に居(を)り 要旨 >>> 波羅門さまが耕してらっしゃる田の稲を食い荒らしたカラスは、瞼ががふくれあがって旗竿にとまっている。 …
訓読 >>> 勝間田(かつまた)の池は我(わ)れ知る蓮(はちす)なししか言ふ君が鬚(ひげ)なきごとし 要旨 >>> 勝間田の池は私はよく知っておりますが、蓮(はす)はありません。蓮があるとおっしゃるあなたに髭がないのと同じです。 鑑賞 >>> 左…
訓読 >>> 飯(いひ)食(は)めど うまくもあらず 行き行けど 安くもあらず あかねさす 君が心し忘れかねつも 要旨 >>> ご飯を食べても美味しくないし、いくら歩き回っても心は落ち着きません。あなたの真心を忘れることができません。 鑑賞 >>> 左…
訓読 >>> 3858このころの我(あ)が恋力(こひぢから)記(しる)し集め功(くう)に申(まを)さば五位の冠(かがふり) 3859このころの我(あ)が恋力(こひぢから)給(たま)らずは京兆(みさとづかさ)に出(い)でて訴(うれ)へむ 要旨 >>> 〈3…
訓読 >>> 橘(たちばな)の寺の長屋(ながや)に我(わ)が率寝(ゐね)し童女放髪(うなゐはなり)は髪(かみ)上げつらむか 要旨 >>> 橘寺の僧坊長屋に私が連れ込んで寝たおかっぱ頭の少女は、もう一人前の女になって、髪を結い上げたであろうか。 …
訓読 >>> かくのみにありけるものを猪名川(ゐながは)の奥(おき)を深めて我(あ)が思(おも)へりける 要旨 >>> こんなにやつれ果てているとも知らず、猪名川の深い川底のように、心の底深く私はそなたのことを思い続けていた。 鑑賞 >>> 序詞…
訓読 >>> 3838我妹子(わぎもこ)が額(ひたひ)に生(お)ふる双六(すごろく)の特負(ことひ)の牛の鞍(くら)の上の瘡(かさ) 3839我(わ)が背子(せこ)が犢鼻(ふさき)にするつぶれ石の吉野の山に氷魚(ひを)ぞ下がれる 要旨 >>> 〈3838〉…
訓読 >>> 美麗(うまし)ものいづく飽(あ)かじを坂門(さかと)らが角(つの)のふくれにしぐひ合ひにけむ 要旨 >>> 美しい女だったらどんな相手だって結婚できるのに、坂門の娘は、よりによって角の太っちょ男なんかと情交を通じるなんて。 鑑賞 >…
訓読 >>> はしたての 熊来(くまき)のやらに 新羅斧(しらきをの) 落(おと)し入れ わし かけてかけて な泣かしそね 浮き出(い)づるやと見む わし 要旨 >>> 熊来の沼に新羅の斧を落っことしてしまったどうしよう、わっしょい。気にしすぎて泣きな…
訓読 >>> 安積山(あさかやま)影さへ見ゆる山の井の浅き心を我(わ)が思はなくに 要旨 >>> 安積山の姿をも映す澄んだ山の泉、その安積山の泉のような浅い思いで私は慕っているのではないのです。 鑑賞 >>> この歌には次のような言い伝えがありま…
訓読 >>> 3846法師(ほふし)らが鬚(ひげ)の剃り杭(くひ)馬つなぎいたくな引きそ法師(ほふし)半(なから)かむ 3847壇越(だにをち)やしかもな言ひそ里長(さとをさ)が課役(えだち)徴(はた)らば汝(な)も泣かむ 要旨 >>> 〈3846〉法師が…
訓読 >>> 3786春さらばかざしにせむと我(あ)が思(おも)ひし桜の花は散り行けるかも 3787妹(いも)が名にかけたる桜花 散(ち)らば常(つね)にや恋ひむいや年のはに 要旨 >>> 〈3786〉春になったら、髪飾りにしようと思っていた、桜の花は散って…
訓読 >>> 鯨魚(いさな)取り海や死にする山や死にする 死ぬれこそ海は潮干(しほひ)て山は枯れすれ 要旨 >>> 海は死んだりするだろうか。山は死んだりするだろうか。いや、死ぬからこそ、海は干上がり、山は枯れ山になる。 鑑賞 >>> 旋頭歌形式(…
訓読 >>> 鹿島嶺(かしまね)の 机(つくゑ)の島の しただみを い拾(ひり)ひ持ち来て 石もち つつき破(やぶ)り 速川(はやかは)に 洗ひ濯(すす)ぎ 辛塩(からしほ)に こごと揉(も)み 高坏(たかつき)に盛(も)り 机に立てて 母にあへつや 目…