大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

巻第3

標結ひて我が定めてし・・・巻第3-394

訓読 >>> 標(しめ)結(ゆ)ひて我(わ)が定めてし住吉(すみのえ)の浜の小松は後(のち)も我(わ)が松 要旨 >>> 標を張って我がものと定めた住吉の浜の小松は、後もずっと私の松なのだ。 鑑賞 >>> 余明軍(よのみょうぐん)は、百済の王族系…

天の原振り放け見れば・・・巻第3-289~290

訓読 >>> 289天(あま)の原(はら)振(ふ)り放(さ)け見れば白真弓(しらまゆみ)張りて懸(か)けたり夜道(よみち)はよけむ 290倉橋(くらはし)の山を高みか夜隠(よごもり)に出で来(く)る月の光(ひかり)乏(とも)しき 要旨 >>> 〈289〉…

はしきやし栄えし君のいましせば・・・巻第3-454~458

訓読 >>> 454はしきやし栄(さか)えし君のいましせば昨日(きのう)も今日(きょう)も我(わ)を召さましを 455かくのみにありけるものを萩(はぎ)の花咲きてありやと問ひし君はも 456君に恋ひいたもすべなみ蘆鶴(あしたづ)の音(ね)のみし泣かゆ朝…

山部赤人が真間の娘子の墓に立ち寄ったときに作った歌・・・巻第3-431~433

訓読 >>> 431古(いにしえ)に ありけむ人の 倭文機(しつはた)の 帯(おび)解(と)き替へて 伏屋(ふせや)立て 妻問(つまど)ひしけむ 葛飾(かつしか)の 真間(まま)の手児名(てごな)が 奥(おく)つ城(き)を こことは聞けど 真木(まき)の…

いにしへの古き堤は年深み・・・巻第3-378

訓読 >>> いにしへの古き堤(つつみ)は年深み池の渚(なぎさ)に水草(みくさ)生(お)ひにけり 要旨 >>> 昔栄えた邸の庭の古い堤は、長い年月を重ね、池のみぎわには水草が生い繁っている。 鑑賞 >>> 題詞に「故(すぎにし)太政大臣藤原家の山…

吉野なる夏実の川の川淀に・・・巻第3-375

訓読 >>> 吉野なる夏実(なつみ)の川の川淀(かはよど)に鴨(かも)ぞ鳴くなる山陰(やまかげ)にして 要旨 >>> 吉野の菜摘の川の淀んだあたりで鴨の鳴く声がする。山陰のあたりで、ここから姿は見えないけれども。 鑑賞 >>> 湯原王が吉野で作っ…

志賀の海女は藻刈り塩焼き・・・巻第3-278

訓読 >>> 志賀(しか)の海女(あま)は藻(め)刈り塩焼き暇(いとま)なみ櫛笥(くしげ)の小櫛(をぐし)取りも見なくに 要旨 >>> 志賀島の海女たちは、藻を刈ったり塩を焼いたりして暇がないので、櫛笥の小櫛を手に取って見ることもできずにいる。…

何処にか我が宿りせむ・・・巻第3-274~277

訓読 >>> 274我(わ)が舟は比良(ひら)の港に漕ぎ泊(は)てむ沖へな離(さか)りさ夜(よ)更けにけり 275何処(いづく)にか我(わ)が宿(やど)りせむ高島(たかしま)の勝野(かちの)の原にこの日暮れなば 276妹(いも)も我(あ)れも一つなれか…

大伴坂上郎女の「神を祭る歌」・・・巻第3-379~380

訓読 >>> 379ひさかたの 天(あま)の原より 生(あ)れ来(きた)る 神の命(みこと) 奥山の 賢木(さかき)の枝に 白香(しらか)付く 木綿(ゆふ)取り付けて 斎瓮(いはひへ)を 斎(いは)ひ堀りすゑ 竹玉(たかたま)を 繁(しじ)に貫(ぬ)き垂…

筑紫で妻を亡くし、都に戻った大伴旅人が作った歌・・・巻第3-451~453

訓読 >>> 451人もなき空しき家は草枕(くさまくら)旅にまさりて苦しくありけり 452妹として二人作りしわが山斎(しま)は木高く繁くなりにけるかも 453我妹子(わぎもこ)が植ゑし梅の木見るごとに心(こころ)咽(む)せつつ涙し流る 要旨 >>> 〈451…

筑紫で妻をなくした大伴旅人が帰京途上に作った歌・・・巻第3-446~450

訓読 >>> 446吾妹子(わぎもこ)が見し鞆(とも)の浦のむろの木は常世(とこよ)にあれど見し人ぞなき 447鞆(とも)の浦の磯(いそ)のむろの木見むごとに相(あひ)見し妹(いも)は忘らえめやも 448磯(いそ)の上に根(ね)這(は)ふむろの木見し人…

大伴旅人が亡き妻を恋い慕って作った歌・・・巻第3-438~440

訓読 >>> 438愛(うつく)しき人のまきてし敷妙(しきたへ)のわが手枕(たまくら)をまく人あらめや 439帰るべく時はなりけり都にて誰(た)が手本(たもと)をか我が枕(まくら)かむ 440都なる荒れたる家にひとり寝(ね)ば旅にまさりて苦しかるべし …

隼人の薩摩の瀬戸を・・・巻第3-248

訓読 >>> 隼人(はやひと)の薩摩(さつま)の瀬戸を雲居(くもゐ)なす遠くも我(わ)れは今日(けふ)見つるかも 要旨 >>> 隼人の住む薩摩の瀬戸よ、その瀬戸を、空の彼方の雲のように遙か遠くだが、私は今この目に見納めた。 鑑賞 >>> 長田王が…

神さびをるかこれの水島・・・巻第3-245~247

訓読 >>> 245聞きしごとまこと尊(たふと)く奇(くす)しくも神(かむ)さびをるかこれの水島(みづしま) 246芦北(あしきた)の野坂(のさか)の浦ゆ船出(ふなで)して水島に行かむ波立つなゆめ 247沖つ波辺波(へなみ)立つともわが背子(せこ)がみ…

雨降らずとの曇る夜の・・・巻第3-370

訓読 >>> 雨降らずとの曇(ぐも)る夜(よ)のしめじめと恋ひつつ居(を)りき君待ちがてり 要旨 >>> 雨は降らないが、空一面に曇っている夜に、しみじみと恋い焦がれておりました。あなたをお待ちしながら。 鑑賞 >>> 中納言阿倍広庭卿の歌。阿倍…

ますらをの弓末振り起し射つる矢を・・・巻第3-364~365

訓読 >>> 364ますらをの弓末(ゆずゑ)振り起(おこ)し射(い)つる矢を後(のち)見む人は語り継(つ)ぐがね 365塩津山(しほつやま)打ち越え行けば我(あ)が乗れる馬ぞつまづく家(いへ)恋ふらしも 要旨 >>> 〈364〉立派な男子たる私が弓の先端…

四極山うち越え見れば・・・巻第3-272~273

訓読 >>> 272四極山(しはつやま)うち越え見れば笠縫(かさぬひ)の島(しま)漕(こ)ぎ隠(かく)る棚(たな)なし小舟(をぶね) 273磯(いそ)の崎(さき)漕(こ)ぎ廻(た)み行けば近江(あふみ)の海(み)八十(やそ)の港に鶴(たづ)さはに鳴…

こもりくの泊瀬の山の・・・巻第3-428

訓読 >>> こもりくの泊瀬(はつせ)の山の山の際(ま)にいさよふ雲は妹(いも)にかもあらむ 要旨 >>> 泊瀬の山のあたりに漂っている雲は、亡くなった乙女なのだろうか。 鑑賞 >>> 亡くなった土形娘子(ひじかたのおとめ)を泊瀬山に火葬した時に…

みもろの神奈備山に五百枝さし・・・巻第3-324~325

訓読 >>> 324みもろの 神奈備(かむなび)山に 五百枝(いおえ)さし しじに生(お)ひたる 栂(つが)の木の いや継(つ)ぎ継ぎに 玉葛(たまかずら) 絶ゆることなく ありつつも やまず通はむ 明日香(あすか)の 古き都は 山高み 川とほしろし 春の日…

奥山の菅の葉しのぎ降る雪の・・・巻第3-299

訓読 >>> 奥山の菅(すが)の葉しのぎ降る雪の消(け)なば惜(を)しけむ雨な降りそね 要旨 >>> 奥山の菅の葉を覆い、降り積もった雪が消えるのは惜しいから、雨よ降らないでおくれ。 鑑賞 >>> 題詞に「大納言大伴卿の歌一首 未だ詳ならず」との記…

桜田へ鶴鳴き渡る年魚市潟・・・巻第3-270~271

訓読 >>> 270旅にしてもの恋(こひ)しきに山下(やまもと)の赤のそほ船(ぶね)沖にこぐ見ゆ 271桜田へ鶴(たづ)鳴き渡る年魚市潟(あゆちがた)潮(しほ)干(ひ)にけらし鶴鳴き渡る 要旨 >>> 〈270〉旅先なので何となくもの恋しい。ふと見ると、…

安積皇子が亡くなった時に大伴家持が作った歌(2)・・・巻第3-478~480

訓読 >>> 478かけまくも あやに畏(かしこ)し わが大君(おほきみ) 皇子(みこ)の命(みこと) もののふの 八十伴(やそとも)の男(を)を 召(め)し集(つど)へ 率(あども)ひたまひ 朝狩(あさがり)に 鹿猪(しし)踏み起こし 夕狩り(ゆふがり…

安積皇子が亡くなった時に大伴家持が作った歌(1)・・・巻第3-475~477

訓読 >>> 475かけまくも あやに畏(かしこ)し 言はまくも ゆゆしきかも 我(わ)が大君(おほきみ) 皇子(みこ)の命(みこと) 万代(よろづよ)に 見(め)したまはまし 大日本(おほやまと) 久迩(くに)の都は うち靡(なび)く 春さりぬれば 山辺…

仙柘枝(やまびとつみのえ)の歌・・・巻第3-385~387

訓読 >>> 385霰(あられ)降り吉志美(きしみ)が岳(たけ)を険(さか)しみと草取りかなわ妹(いも)が手を取る 386この夕(ゆふへ)柘(つみ)のさ枝(えだ)の流れ来(こ)ば梁(やな)は打たずて取らずかもあらむ 387いにしへに梁(やな)打つ人のな…

柿本人麻呂が旅の途上に詠んだ歌・・・巻第3-249~256

訓読 >>> 249御津(みつ)の崎(さき)波を恐(かしこ)み隠江(こもりえ)の船なる君は野島(ぬしま)にと宣(の)る 250玉藻(たまも)刈る敏馬(みぬめ)を過ぎて夏草の野島が崎に舟近づきぬ 251淡路(あはぢ)の野島が崎の浜風に妹(いも)が結びし紐…

長皇子が猟路の池で狩猟をなさったとき、柿本人麻呂の作った歌・・・巻第3-239~241

訓読 >>> 239やすみしし わが大君(おほきみ) 高(たか)照らす わが日の皇子(みこ)の 馬(うま)並(な)めて 御狩(みかり)立たせる 若薦(わかこも)を 猟路(かりぢ)の小野に 獣(しし)こそば い這(は)ひ拝(おろが)め 鶉(うづら)こそ い…

苦しくも降り来る雨か・・・巻第3-265

訓読 >>> 苦しくも降り来る雨か三輪(みわ)の崎(さき)狭野(さの)の渡りに家もあらなくに 要旨 >>> 何と鬱陶しいことに雨が降ってきた。三輪の崎の狭野の渡し場に、雨宿りする家もないのに。 鑑賞 >>> 長忌寸意吉麻呂(ながのいみきおきまろ)…

秋さらば見つつ偲へと・・・巻第3-464~465

訓読 >>> 464秋さらば見つつ偲(しの)へと妹(いも)が植ゑしやどのなでしこ咲きにけるかも 465うつせみの世は常(つね)なしと知るものを秋風 寒(さむ)み偲(しの)ひつるかも 要旨 >>> 〈464〉秋になったらごらんになって私を思い出してください…

今よりは秋風寒く吹きなむを・・・巻第3-462~463

訓読 >>> 462今よりは秋風(あきかぜ)寒く吹きなむを如何(いかに)かひとり長き夜(よ)を寝(ね)む 463長き夜(よ)をひとりや寝(ね)むと君が言へば過ぎにし人の思ほゆらくに 要旨 >>> 〈462〉これから秋風が寒く吹く時節を迎えるのに、どのよう…

昔こそ難波田舎と言はれけめ・・・巻第3-312

訓読 >>> 昔こそ難波田舎(なにはゐなか)と言はれけめ今は都(みやこ)引き都(にやこ)びにけり 要旨 >>> 昔こそは、難波田舎と呼ばれていたであろう。しかし、今では都を引き移してすっかり都らしくなってきた。 鑑賞 >>> 神亀3年(726年)、藤…