巻第3
訓読 >>> 404ちはやぶる神の社(やしろ)しなかりせば春日(かすが)の野辺(のへ)に粟(あわ)蒔(ま)かましを 405春日野(かすがの)に粟(あわ)蒔(ま)けりせば鹿(しし)待ちに継(つ)ぎて行かましを社(やしろ)し怨(うら)めし 406我(わ)が…
訓読 >>> 319なまよみの 甲斐(かひ)の国 うち寄する 駿河(するが)の国と 此方此方(こちごち)の 国のみ中ゆ 出(い)で立てる 富士の高嶺(たかね)は 天雲(あまくも)も い行(ゆ)きはばかり 飛ぶ鳥も 飛びものぼらず 燃ゆる火を 雪もち消(け)…
訓読 >>> 236否(いな)といへど強ふる志斐(しひ)のが強(し)ひがたりこの頃聞かずてわれ恋ひにけり 237否といへど語れ語れと詔(の)らせこそ志斐いは奏(まを)せ強語(しひがたり)と詔(の)る 要旨 >>> 〈236〉もうたくさんだといっても無理に…
訓読 >>> 303名ぐはしき稲見(いなみ)の海の沖つ波 千重(ちへ)に隠りぬ大和島根(やまとしまね)は 304大君(おほきみ)の遠(とほ)の朝廷(みかど)とあり通(がよ)ふ島門(しまと)を見れば神代(かみよ)し思ほゆ 要旨 >>> 〈303〉名高い稲見…
訓読 >>> もののふの八十氏河(やそうじかは)の網代木(あじろき)に いさよふ波の行く方知らずも 要旨 >>> 宇治川の網代木に遮られてただよう水のように、人の行く末とは分からないものだ。 鑑賞 >>> 柿本人麻呂が近江国から大和へ上った時、宇治…
訓読 >>> 429山の際(ま)ゆ出雲(いづも)の子らは霧(きり)なれや吉野の山の嶺(みね)にたなびく 430八雲(やくも)さす出雲(いづも)の子らが黒髪は吉野の川の沖になづさふ 要旨 >>> 〈429〉山の間から湧き立つ雲のように溌剌としていた出雲の娘…
訓読 >>> 世間(よのなか)を何に譬(たと)へむ朝開(あさびら)き漕(こ)ぎ去(い)にし船の跡(あと)なきごとし 要旨 >>> 世の中を何に譬えたらよかろう。船が夜明けに漕ぎ去ったあとには何の跡形もなくなってしまう。人生もそんなものだろうか。…
訓読 >>> 大宮(おほみや)の内(うち)まで聞こゆ網引(あびき)すと網子(あこ)ととのふる海人(あま)の呼び声 要旨 >>> 大君のおられる御殿の中まで聞こえてくる、網を引こうとして、網子たちを指揮する漁師の威勢のいい掛け声が。 鑑賞 >>> …
訓読 >>> 隼人(はやひと)の薩摩(さつま)の瀬戸を雲居(くもゐ)なす遠くも我(わ)れは今日(けふ)見つるかも 要旨 >>> 隼人の住む薩摩の瀬戸よ、その瀬戸を、空の彼方の雲のように遙か遠くだが、私は今この目に見納めた。 鑑賞 >>> 長田王(…
訓読 >>> 我(わ)が屋戸(やど)に韓藍(からあゐ)蒔(ま)き生(お)ほし枯(か)れぬれど懲(こ)りずてまたも蒔かむとぞ思ふ 要旨 >>> わが家の庭に、鶏頭花を種から育てたところ枯れてしまった。けれども懲りずにまた種を蒔こうと思う。 鑑賞 >…
訓読 >>> 蜻蛉羽(あきづは)の袖振る妹(いも)を玉くしげ奥に思ふを見たまへ我(あ)が君 要旨 >>> とんぼの羽のように薄く美しい袖をひるがえして舞うあの子を、私は秘蔵の思いでいとしく思っているのです、よくよく御覧になって下さい、我が君よ。…
訓読 >>> ももづたふ磐余(いはれ)の池に鳴く鴨(かも)を今日(けふ)のみ見てや雲隠(くもがく)りなむ 要旨 >>> 磐余の池に鳴いている鴨を見るのも今日限りで、私は死ぬのだろうか。 鑑賞 >>> 大津皇子(おおつのみこ)は天武天皇の御子で、「…
訓読 >>> 憶良(おくら)らは今は罷(まか)らむ子泣くらむその彼の母も吾(わ)を待つらむぞ 要旨 >>> 私、憶良はもう失礼いたします。今ごろ家では子供が泣いているでしょう、その母親も私を待っていますから。 鑑賞 >>> 題詞には、山上憶良が「…
訓読 >>> しらぬひ筑紫(つくし)の綿は身に付けていまだは着(き)ねど暖(あたた)けく見ゆ 要旨 >>> 筑紫の綿で作られた着物はまだ肌身につけて着たことは無いけれど、いかにも暖かそうに見える。 鑑賞 >>> 題詞に「沙弥満誓(さみまんぜい)、…
訓読 >>> 372春日(はるひ)を 春日(かすが)の山の 高座(たかくら)の 三笠(みかさ)の山に 朝去らず 雲居(くもゐ)たなびき 容鳥(かほどり)の 間(ま)なくしば鳴く 雲居(くもゐ)なす 心いさよひ その鳥の 片恋(かたこひ)のみに 昼はも 日の…
訓読 >>> 315み吉野の 吉野の宮は 山からし 貴くあらし 川からし さやけくあらし 天地(あめつち)と 長く久しく 万代(よろづよ)に 変はらずあらむ 幸(いでま)しの宮 316昔見し象(きさ)の小川を今見ればいよよさやけくなりにけるかも 要旨 >>> …
訓読 >>> 見渡せば明石(あかし)の浦に燭(とも)す火の穂(ほ)にぞ出(い)でぬる妹(いも)に恋(こ)ふらく 要旨 >>> 遠く見渡すと、明石の浦に海人(あま)の燭す漁火(いさりび)が見える。その火のようにおもてに出てしまった、あの娘に恋い焦…
訓読 >>> 軽(かる)の池の浦廻(うらみ)行き廻(み)る鴨(かも)すらに玉藻(たまも)の上に独(ひと)り寝なくに 要旨 >>> 軽の池の岸の周辺を泳ぎ回る鴨たちでさえ、玉藻の上に一人で寝ることはないというのに。 鑑賞 >>> 作者の紀皇女(きの…
訓読 >>> 443天雲(あまぐも)の 向伏(むかぶ)す国の ますらをと 言はるる人は 天皇(すめろき)の 神の御門(みかど)に 外(と)の重(へ)に 立ち候(さもら)ひ 内(うち)の重(へ)に 仕(つか)へ奉(まつ)りて 玉葛(たまかづら) いや遠長(…
訓読 >>> 陸奥(みちのく)の真野(まの)の草原(かやはら)遠けども面影(おもかげ)にして見ゆといふものを 要旨 >>> 陸奥(みちのく)の真野の草原は、遠いけれど面影としてはっきり見えるというのに、近くにいるはずのあなたはどうして見えてくれ…
訓読 >>> 417大君(おほきみ)の和魂(にきたま)あへや豊国(とよくに)の鏡の山を宮と定むる 418豊国の鏡の山の岩戸(いはと)立て隠(こも)りにけらし待てど来まさず 419岩戸(いはと)破(わ)る手力(たぢから)もがも手弱き(たよわ)女にしあれば…
訓読 >>> ともしびの明石(あかし)大門(おほと)に入(い)らむ日や榜(こ)ぎ別れなむ家のあたり見ず 要旨 >>> 明石の海門を通過するころには、いよいよ家郷の大和の山々とも別れることとなるのだ。 鑑賞 >>> 柿本人麻呂が、船旅の途上で読んだ…
訓読 >>> 317天地(あめつち)の 分れし時ゆ 神(かむ)さびて 高く貴(たふと)き 駿河(するが)なる 布士(ふじ)の高嶺を 天の原 振りさけ見れば 渡る日の 影も隠(かく)らひ 照る月の 光も見えず 白雲(しらくも)も い行きはばかり 時じくぞ 雪は…
訓読 >>> 338験(しるし)なきもの思(おも)はずは一坏(ひとつき)の濁(にご)れる酒を飲むべくあるらし 339酒の名を聖(ひじり)と負(おほ)せし古(いにしへ)の大(おほ)き聖(ひじり)の言(こと)の宜(よろ)しさ 340古(いにしへ)の七(なな…
訓読 >>> 家にあらば妹(いも)が手まかむ草枕(くさまくら)旅に臥(こ)やせるこの旅人(たびと)あはれ 要旨 >>> 家にいたなら、妻の腕を枕としているであろうに、草を枕の旅路に倒れて亡くなったこの旅人が哀れである。 鑑賞 >>> 推古天皇の摂…