大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

巻第3

妹が名は千代に流れむ・・・巻第3-228~229

訓読 >>> 228妹(いも)が名は千代(ちよ)に流れむ姫島(ひめしま)の小松(こまつ)が末(うれ)に蘿(こけ)生(む)すまでに 229難波潟(なにはがた)潮干(しほひ)なありそね沈みにし妹(いも)が姿を見まく苦しも 要旨 >>> 〈228〉その娘の名は…

橘をやどに植ゑ生ほし・・・巻第3-410~411

訓読 >>> 410橘(たちばな)をやどに植ゑ生(お)ほし立ちて居て後(のち)に悔ゆとも験(しるし)あらめやも 411我妹子(わぎもこ)がやどの橘(たちばな)いと近く植ゑてし故(ゆゑ)に成(な)らずはやまじ 要旨 >>> 〈410〉橘の木を庭に植え育てて…

春日野を背向に見つつ・・・巻第3-460~461

訓読 >>> 460栲角(たくづの)の 新羅(しらき)の国ゆ 人言(ひとごと)を よしと聞かして 問ひ放(さ)くる 親族兄弟(うがらはらがら) なき国に 渡り来まして 大君(おほきみ)の 敷きます国に うちひさす 都しみみに 里家(さといへ)は さはにあれ…

伊予の高嶺の射狭庭の・・・巻第3-322~323

訓読 >>> 322皇神祖(すめろき)の 神の命(みこと)の 敷きいます 国のことごと 湯はしも 多(さは)にあれども 島山の 宜(よろ)しき国と こごしき 伊予の高嶺(たかね)の 射狭庭(いさには)の 岡に立たして うち思(しの)ひ 辞思(ことしの)ひせ…

むささびは木ぬれ求むと・・・巻第3-267

訓読 >>> むささびは木(こ)ぬれ求むとあしひきの山の猟夫(さつを)にあひにけるかも 要旨 >>> むささびが、林間の梢を飛び渡っているうちに、猟師に見つかって獲られてしまった。 鑑賞 >>> 志貴皇子(しきのみこ)の御歌。むささびは高い所から…

その夜の梅を手忘れて・・・巻第3-392

訓読 >>> ぬばたまのその夜の梅を手忘(たわす)れて折らず来(き)にけり思ひしものを 要旨 >>> あの夜に見た梅を、うっかり忘れて手折らずに来てしまった。あの花がよいと、深く心に留めておいたのに。 鑑賞 >>> 宴に侍っていた女性に目をつけて…

わが盛また変若めやも・・・巻第3-331~334

訓読 >>> 331わが盛(さかり)また変若(をち)めやもほとほとに平城(なら)の京(みやこ)を見ずかなりけむ 332わが命(いのち)も常にあらぬか昔見し象(きさ)の小河(をがは)を行きて見むため 333浅茅原(あさぢばら)つばらつばらにもの思(も)へ…

筑波嶺を外のみ見つつありかねて・・・巻第3-382~383

訓読 >>> 382鶏(とり)が鳴く 東(あづま)の国に 高山(たかやま)は さはにあれども 二神(ふたがみ)の 貴(たふと)き山の 並(な)み立ちの 見(み)が欲(ほ)し山と 神代(かみよ)より 人の言ひ継ぎ 国見(くにみ)する 筑波(つくは)の山を 冬…

大君は神にしませば・・・巻第3-235

訓読 >>> 大君(おほきみ)は神にしませば天雲(あまくも)の雷(いかづち)の上に廬(いほ)りせるかも 要旨 >>> 天皇は神でいらっしゃるので、天雲にそそり立つ雷の上に仮の宮殿を造っていらっしゃる。 鑑賞 >>> 題詞に「天皇(すめらみこと)、…

娘子が僧を揶揄した時の歌・・・巻第3-327

訓読 >>> 海神(わたつみ)の沖に持ち行きて放(はな)つともうれむぞこれがよみがへりなむ 要旨 >>> 海の沖に持って行って放してやったとしても、どうして、これが生き返ることがありましょうや。 鑑賞 >>> ある娘子たちが、通観法師(伝未詳)に…

あをによし奈良の都は・・・巻第3-328~331

訓読 >>> 328あをによし奈良の都は咲く花のにほふがごとく今盛りなり 329やすみしし我が大君(おほきみ)の敷きませる国の中(うち)には都し思(おも)ほゆ 330藤波(ふぢなみ)の花は盛りになりにけり奈良の都を思ほすや君 331わが盛(さかり)また変若…

託馬野に生ふる紫草・・・巻第3-395

訓読 >>> 託馬野(つくまの)に生(お)ふる紫草(むらさき)衣(きぬ)に染(し)めいまだ着ずして色に出(い)でにけり 要旨 >>> 託馬野(つくまの)に生い茂る紫草で着物を染めて、未だに着ていないのに、もう紫の色が人目に立ってしまいました。 …

天の探女が岩船の・・・巻第3-292~295

訓読 >>> 292ひさかたの天(あま)の探女(さぐめ)が岩船(いはふね)の泊(は)てし高津(たかつ)はあせにけるかも 293潮干(しほひ)の御津(みつ)の海女(あまめ)のくぐつ持ち玉藻(たまも)刈るらむいざ行きて見む 294風をいたみ沖つ白波(しらな…

ちはやぶる神の社しなかりせば・・・巻第3-404~406

訓読 >>> 404ちはやぶる神の社(やしろ)しなかりせば春日(かすが)の野辺(のへ)に粟(あわ)蒔(ま)かましを 405春日野(かすがの)に粟(あわ)蒔(ま)けりせば鹿(しし)待ちに継(つ)ぎて行かましを社(やしろ)し怨(うら)めし 406我(わ)が…

富士の嶺を高み畏み・・・巻第3-319~321

訓読 >>> 319なまよみの 甲斐(かひ)の国 うち寄する 駿河(するが)の国と 此方此方(こちごち)の 国のみ中ゆ 出(い)で立てる 富士の高嶺(たかね)は 天雲(あまくも)も い行(ゆ)きはばかり 飛ぶ鳥も 飛びものぼらず 燃ゆる火を 雪もち消(け)…

持統天皇と志斐嫗の問答歌・・・巻第3-236~237

訓読 >>> 236否(いな)といへど強(し)ふる志斐(しひ)のが強語(しひがたり)この頃(ころ)聞かずてわれ恋ひにけり 237否(いな)といへど語れ語れと詔(の)らせこそ志斐(しひ)いは奏(まを)せ強語(しひがたり)と詔(の)る 要旨 >>> 〈236…

名ぐはしき稲見の海の・・・巻第3-303~304

訓読 >>> 303名ぐはしき稲見(いなみ)の海の沖つ波 千重(ちへ)に隠りぬ大和島根(やまとしまね)は 304大君(おほきみ)の遠(とほ)の朝廷(みかど)とあり通(がよ)ふ島門(しまと)を見れば神代(かみよ)し思ほゆ 要旨 >>> 〈303〉名高い稲見…

もののふの八十氏河の・・・巻第3-264

訓読 >>> もののふの八十氏河(やそうじかは)の網代木(あじろき)に いさよふ波の行く方知らずも 要旨 >>> 宇治川の網代木に遮られてただよう水のように、人の行く末とは分からないものだ。 鑑賞 >>> 柿本人麻呂が近江国から大和へ上った時、宇治…

八雲さす出雲の子らが・・・巻第3-429~430

訓読 >>> 429山の際(ま)ゆ出雲(いづも)の子らは霧(きり)なれや吉野の山の嶺(みね)にたなびく 430八雲(やくも)さす出雲(いづも)の子らが黒髪は吉野の川の沖になづさふ 要旨 >>> 〈429〉山の間から湧き立つ雲のように溌剌としていた出雲の娘…

世間を何に譬へむ・・・巻第3-351

訓読 >>> 世間(よのなか)を何に譬(たと)へむ朝開(あさびら)き漕(こ)ぎ去(い)にし船の跡(あと)なきごとし 要旨 >>> 世の中を何に譬えたらよかろう。船が夜明けに漕ぎ去ったあとには何の跡形もなくなってしまう。人生もそんなものだろうか。…

大宮の内まで聞こゆ・・・巻第3-238

訓読 >>> 大宮(おほみや)の内(うち)まで聞こゆ網引(あびき)すと網子(あこ)ととのふる海人(あま)の呼び声 要旨 >>> 大君のおられる御殿の中まで聞こえてくる、網を引こうとして、網子たちを指揮する漁師の威勢のいい掛け声が。 鑑賞 >>> …

隼人の薩摩の瀬戸を・・・巻第3-248

訓読 >>> 隼人(はやひと)の薩摩(さつま)の瀬戸を雲居(くもゐ)なす遠くも我(わ)れは今日(けふ)見つるかも 要旨 >>> 隼人の住む薩摩の瀬戸よ、その瀬戸を、空の彼方の雲のように遙か遠くだが、私は今この目に見納めた。 鑑賞 >>> 長田王(…

我が屋戸に韓藍蒔き生ほし・・・巻第3-384

訓読 >>> 我(わ)が屋戸(やど)に韓藍(からあゐ)蒔(ま)き生(お)ほし枯(か)れぬれど懲(こ)りずてまたも蒔かむとぞ思ふ 要旨 >>> わが家の庭に、鶏頭花を種から育てたところ枯れてしまった。けれども懲りずにまた種を蒔こうと思う。 鑑賞 >…

蜻蛉羽の袖振る妹を・・・巻第3-376

訓読 >>> 蜻蛉羽(あきづは)の袖振る妹(いも)を玉くしげ奥に思ふを見たまへ我(あ)が君 要旨 >>> とんぼの羽のように薄く美しい袖をひるがえして舞うあの子を、私は秘蔵の思いでいとしく思っているのです、よくよく御覧になって下さい、我が君よ。…

大津皇子、涕を流して作りませる御歌・・・巻3-416

訓読 >>> ももづたふ磐余(いはれ)の池に鳴く鴨(かも)を今日(けふ)のみ見てや雲隠(くもがく)りなむ 要旨 >>> 磐余の池に鳴いている鴨を見るのも今日限りで、私は死ぬのだろうか。 鑑賞 >>> 大津皇子(おおつのみこ)は天武天皇の御子で、「…

今は罷らむ子泣くらむ・・・巻第3-337

訓読 >>> 憶良(おくら)らは今は罷(まか)らむ子泣くらむその彼の母も吾(わ)を待つらむぞ 要旨 >>> 私、憶良はもう失礼いたします。今ごろ家では子供が泣いているでしょう、その母親も私を待っていますから。 鑑賞 >>> この歌は、山上憶良が筑…

筑紫の綿は暖けく見ゆ・・・巻第3-336

訓読 >>> しらぬひ筑紫(つくし)の綿は身に付けていまだは着(き)ねど暖(あたた)けく見ゆ 要旨 >>> 筑紫の綿で作られた着物はまだ肌身につけて着たことは無いけれど、いかにも暖かそうに見える。 鑑賞 >>> 題詞に「沙弥満誓(さみまんぜい)、…

止めば継がるる恋・・・巻第3-372~373

訓読 >>> 372春日(はるひ)を 春日(かすが)の山の 高座(たかくら)の 三笠(みかさ)の山に 朝去らず 雲居(くもゐ)たなびき 容鳥(かほどり)の 間(ま)なくしば鳴く 雲居(くもゐ)なす 心いさよひ その鳥の 片恋(かたこひ)のみに 昼はも 日の…

み吉野の吉野の宮は山からし・・・巻第3-315~316

訓読 >>> 315み吉野の 吉野の宮は 山からし 貴くあらし 川からし さやけくあらし 天地(あめつち)と 長く久しく 万代(よろづよ)に 変はらずあらむ 幸(いでま)しの宮 316昔見し象(きさ)の小川を今見ればいよよさやけくなりにけるかも 要旨 >>> …

明石の浦に燭す火の・・・巻第3-326

訓読 >>> 見渡せば明石(あかし)の浦に燭(とも)す火の穂(ほ)にぞ出(い)でぬる妹(いも)に恋(こ)ふらく 要旨 >>> 遠く見渡すと、明石の浦に海人(あま)の燭す漁火(いさりび)が見える。その火のようにおもてに出てしまった、あの娘に恋い焦…