巻第6
訓読 >>> 御民(みたみ)我(わ)れ生ける験(しるし)あり天地(あめつち)の栄(さか)ゆる時にあへらく思へば 要旨 >>> 天皇の御民である私は、まことに生きがいを感じております。天も地も一体となって栄えているこの御代に生まれ合わせたことを思…
訓読 >>> 967倭道(やまとぢ)の吉備(きび)の児島(こじま)を過ぎて行かば筑紫(つくし)の児島(こじま)思ほえむかも968大夫(ますらを)と思へる吾(われ)や水茎(みづくき)の水城(みづき)のうへに涕(なみだ)拭(のご)はむ 要旨 >>> 〈96…
訓読 >>> 965凡(おほ)ならばかもかも為(せ)むを恐(かしこ)みと振(ふ)り痛(た)き袖(そで)を忍びてあるか966倭道(やまとぢ)は雲隠(くもがく)りたり然(しか)れどもわが振(ふる)る袖(そで)を無礼(なめ)しと思ふな 要旨 >>> 〈965…
訓読 >>> 雲隠(くもがく)り行くへをなみと我(あ)が恋ふる月をや君が見まく欲(ほ)りする 要旨 >>> 雲に隠れて行方が分からないと、私が心待ちにしている月を、あなたも見たいとお思いでしょうか。 鑑賞 >>> 豊前国の娘子の月の歌。「娘子の字…
訓読 >>> 言問(ことと)はぬ木すら妹(いも)と兄(せ)とありといふをただ独(ひと)り子にあるが苦しさ 要旨 >>> ものを言わない木にさえも兄弟姉妹があるというのに、私はまったくの一人っ子であるのが悲しい。 鑑賞 >>> 市原王(いちはらのお…
訓読 >>> 1044紅(くれなゐ)に深く染(し)みにし心かも奈良の都に年の経(へ)ぬべき 1045世間(よのなか)を常(つね)なきものと今ぞ知る奈良の都のうつろふ見れば 1046岩綱(いはつな)のまた変若(を)ちかへりあをによし奈良の都をまたも見むかも …
訓読 >>> 1050現(あき)つ神 我(わ)が大君(おほきみ)の 天(あめ)の下 八島(やしま)の(うち)に 国はしも さはにあれども 里はしも さはにあれども 山並(やまなみ)の 宜(よろ)しき国と 川なみの 立ち合ふ里と 山背(やましろ)の 鹿背山(か…
訓読 >>> 1047やすみしし 我(わ)が大君(おほきみ)の 高敷(たかし)かす 大和の国は 皇祖(すめろき)の 神の御代(みよ)より 敷きませる 国にしあれば 生(あ)れまさむ 御子(みこ)の継(つ)ぎ継ぎ 天(あめ)の下 知らしまさむと 八百万(やほ…
訓読 >>> 917やすみしし わご大君の 常営(とこみや)と 仕へまつれる 雑賀野(さひかの)ゆ 背向(そがひ)に見ゆる 沖つ島 清き渚(なぎさ)に 風吹けば 白波(しらなみ)騒(さわ)き 潮(しほ)干(ふ)れば 玉藻(たまも)刈りつつ 神代(かみよ)よ…
訓読 >>> いにしへゆ人の言ひ来(け)る老人(おいひと)の変若(を)つといふ水ぞ名に負(お)ふ瀧(たき)の瀬(せ) 要旨 >>> これが古来言い伝えてきた、老人を若返らせるという水だ。いかにもその名にふさわしい滝の流れよ。 鑑賞 >>> 天平12…
訓読 >>> 971白雲の 龍田(たつた)の山の 露霜(つゆしも)に 色づく時に 打ち越えて 旅行く君は 五百重山(いほへやま) い行ゆきさくみ 賊(あた)守る 筑紫(つくし)に至り 山の極(そき) 野の極(そき)見よと 伴(とも)の部(べ)を 班(あか)…
訓読 >>> 923やすみしし わご大君の 高知らす 吉野の宮は 畳(たたな)づく 青垣(あをかき)隠(ごも)り 川波の 清き河内(かふち)ぞ 春へは 花咲きををり 秋されば 霧(きり)立ち渡る その山の いやますますに この川の 絶ゆることなく ももしきの …
訓読 >>> ますらをの高円山(たかまとやま)に迫(せ)めたれば里(さと)に下り来(け)るむざさびぞこれ 要旨 >>> 勇士たちが高円山で追い詰めましたので、里に下りてきたムササビでございます、これは。 鑑賞 >>> 大伴坂上郎女の歌。題詞に次の…
訓読 >>> 973食(を)す国の 遠(とほ)の朝廷(みかど)に 汝(いまし)らが かく罷(まか)りなば 平(たひら)けく 我(わ)れは遊ばむ 手抱(たむだ)きて 我れはいまさむ 天皇(すめら)我(わ)れ うづの御手(みて)もち かき撫(な)でぞ ねぎた…
訓読 >>> 一昨日(をとつひ)も昨日(きのふ)も今日(けふ)も見つれども明日(あす)さへ見まく欲しき君かも 要旨 >>> 一昨日、昨日、そして今日もお目にかかりましたが、さらに明日もまたお目にかかりたいと思うあなた様です。 鑑賞 >>> 作者の…
訓読 >>> 我が背子が着(け)る衣(きぬ)薄し佐保風(さほかぜ)はいたくな吹きそ家に至るまで 要旨 >>> 私のあの人の着ている衣は薄いので、佐保の風はきつく吹かないでください、家にあの人が帰りつくまでは。 鑑賞 >>> 大伴坂上郎女の家を、甥…
訓読 >>> 993月立ちてただ三日月の眉根(まよね)掻(か)き日長く恋ひし君に逢へるかも 994ふりさけて若月(みかづき)見ればひと目見し人の眉引(まよび)き思ほゆるかも 要旨 >>> 〈993〉姿をあらわしてたった三日という細い月のかたちの眉を掻いて…
訓読 >>> 白珠(しらたま)は人に知らえず知らずともよし 知らずともわれし知れらば知らずともよし 要旨 >>> 真珠は、その真の価値を人に知られない。しかし、世の人が知らなくてもよい。たとえ世の人が知らなくても、自分さえ知っていれば構わない。 …