大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

巻第6

朝なぎに梶の音聞こゆ御食つ国・・・巻第6-933~934

訓読 >>> 933天地(あめつち)の 遠きがごとく 日月(ひつき)の 長きがごとく おしてる 難波(なには)の宮に わご大君(おほきみ) 国知らすらし 御食(みけ)つ国 日の御調(みつき)と 淡路(あはぢ)の 野島(のしま)の海人(あま)の 海(わた)の…

一つ松幾代か経ぬる・・・巻第6-1042~1043

訓読 >>> 1042一つ松(まつ)幾代(いくよ)か経(へ)ぬる吹く風の音(おと)の清きは年深みかも 1043たまきはる命(いのち)は知らず松が枝(え)を結ぶ心は長くとぞ思ふ 要旨 >>> 〈1042〉この一本松はどれほどの代を経たのだろうか。松風の音が澄…

今造る久邇の都は・・・巻第6-1037

訓読 >>> 今造る久邇(くに)の都は山川の清(さや)けき見ればうべ知らすらし 要旨 >>> 新しく造られる久邇の都は、山川の清らかさを見れば、ここに君臨なさることはもっともなことだと思われます。 鑑賞 >>> 大伴家持が、天平12年12月から同16年2…

久邇の新京を讃むる歌・・・巻第6-1053~1058

訓読 >>> 1053我が大君(おほきみ) 神の命(みこと)の 高知らす 布当(ふたぎ)の宮は 百木(ももき)盛り 山は木高(こだか)し 落ちたぎつ 瀬の音も清し 鴬(うぐひす)の 来鳴く春へは 巌(いはほ)には 山下(やました)光り 錦(にしき)なす 花咲…

いさなとり浜辺を清み・・・巻第6-931~932

訓読 >>> 931いさなとり 浜辺(はまへ)を清み 打ち靡(なび)き 生ふる玉藻(たまも)に 朝凪(あさなぎ)に 千重(ちへ)波寄せ 夕凪(ゆふなぎ)に 五百重(いほへ)波寄す 辺(へ)つ波の いやしくしくに 月に異(け)に 日に日に見とも 今のみに 飽…

我が背子に恋ふれば苦し・・・巻第6-963~964

訓読 >>> 963大汝(おほなむち) 少彦名(すくなひこな)の 神こそば 名付(なづ)けそめけめ 名のみを 名児山(なごやま)と負(お)ひて 我(あ)が恋の 千重(ちへ)の一重(ひとへ)も 慰(なぐさ)めなくに 964我(わ)が背子(せこ)に恋ふれば苦し…

さす竹の大宮人の家と住む・・・巻第6-955~956

訓読 >>> 955さす竹の大宮人(おほみやひと)の家と住む佐保(さほ)の山をば思ふやも君 956やすみしし我が大君(おほきみ)の食(を)す国は大和もここも同じとぞ思ふ 要旨 >>> 〈955〉大宮人が住んでいる所の、佐保山のことを思い起こしませんか、わ…

宴席の歌(8)・・・巻第6-1011~1012

訓読 >>> 1011我(わ)が宿(やど)の梅咲きたりと告げ遣(や)らば来(こ)と言ふに似たり散りぬともよし 1012春さればををりにををり鴬(うぐひす)の鳴く我(わ)が山斎(しま)ぞやまず通はせ 要旨 >>> 〈1011〉我が家の庭に梅が咲いたとお知らせ…

山の端にいさよふ月の・・・巻第6-1008

訓読 >>> 山の端(は)にいさよふ月の出(い)でむかと我(あ)が待つ君が夜(よ)は更けにつつ 要旨 >>> 山の端でためらっている月のように、私が待っているあなたが(見えずに)、夜は更けていく。 鑑賞 >>> 忌部首黒麻呂(いむべのおびとくろま…

士やも空しくあるべき・・・巻第6-978

訓読 >>> 士(をのこ)やも空(むな)しくあるべき万代(よろづよ)に語り継ぐべき名は立てずして 要旨 >>> 男子たるもの、このまま空しく世を去ってよいものか。いつのいつの代までも語り継がれるほど立派な名を立てないまま。 鑑賞 >>> 左注に、…

大夫は御猟に立たし・・・巻第6-1001

訓読 >>> 大夫(ますらを)は御猟(みかり)に立たし娘子(をとめ)らは赤裳(あかも)裾(すそ)引く清き浜廻(はまび)を 要旨 >>> 廷臣たちは狩をしにお発ちになり、官女らは赤い着物の裾を引きながら、きれいな浜で海の物を求めている。 鑑賞 >>…

山の端のささら愛壮士・・・巻第6-983

訓読 >>> 山の端(は)のささら愛壮士(えをとこ)天(あま)の原(はら)門(と)渡る光(ひかり)見らくし好(よ)しも 要旨 >>> 山の端に出てきた小さな月の美男子が、天の原を渡りつつ照らす光の何とすばらしい眺めでしょう。 鑑賞 >>> 大伴坂…

かがよふ玉を取らずはやまじ・・・巻第6-950~953

訓読 >>> 950大君(おほきみ)の境(さか)ひたまふと山守(やまもり)据(す)ゑ守(も)るといふ山に入(い)らずはやまじ 951見わたせば近きものから岩隠(いはがく)りかがよふ玉を取らずはやまじ 952韓衣(からころも)着(き)奈良(なら)の里(さ…

橘は実さへ花さへ・・・巻第6-1009

訓読 >>> 橘(たちばな)は実さへ花さへその葉さへ枝(え)に霜(しも)降れどいや常葉(とこは)の木 要旨 >>> 橘という木は、実も花もその葉さえも、冬、枝に霜が降っても枯れることのない常緑の樹である。 鑑賞 >>> 天平8年(736年)11月、葛城…

宴席の歌(6)・・・巻第6-1024~1027

訓読 >>> 1024長門(ながと)なる沖つ借島(かりしま)奥(おく)まへて我(あ)が思ふ君は千年(ちとせ)にもがも 1025奥(おく)まへて我(わ)れを思へる我(わ)が背子(せこ)は千年(ちとせ)五百年(いほとせ)ありこせぬかも 1026ももしきの大宮…

あぢさはふ妹が目離れて・・・巻第6-942~945

訓読 >>> 942あぢさはふ 妹が目(め)離(か)れて しきたへの 枕も巻かず 桜皮(かには)巻き 作れる舟に 真楫(まかぢ)貫(ぬ)き 我(わ)が榜(こ)ぎ来れば 淡路の 野島(のしま)も過ぎ 印南都麻(いなみつま) 辛荷(からに)の島の 島の際(ま)…

あり通ふ難波の宮は・・・巻第6-1062~1064

訓読 >>> 1062やすみしし 我(わ)が大君(おほきみ)の あり通(がよ)ふ 難波(なには)の宮は いさなとり 海(うみ)片付(かたづ)きて 玉(たま)拾(ひり)ふ 浜辺(はまへ)を近み 朝(あさ)羽振(はふ)る 波の音(おと)騒(さわ)き 夕なぎに …

荒墟となった恭仁京を悲しむ歌・・・巻第6-1059~1061

訓読 >>> 1059三香原(みかのはら) 久邇(くに)の都は 山高く 川の瀬清み 住み良しと 人は言へども あり良しと 我(わ)れは思へど 古(ふ)りにし 里にしあれば 国見れど 人も通はず 里見れば 家も荒れたり はしけやし かくありけるか 三諸(みもろ)…

聖武天皇の印南野行幸の折、笠金村が作った歌・・・巻第6-935~937

訓読 >>> 935名寸隅(なきすみ)の 舟瀬(ふなせ)ゆ見ゆる 淡路島 松帆(まつほ)の浦に 朝なぎに 玉藻(たまも)刈りつつ 夕なぎに 藻塩(もしほ)焼きつつ 海人娘子(あまをとめ) ありとは聞けど 見に行(ゆ)かむ よしのなければ ますらをの 心はな…

聖武天皇が難波の宮に行幸あったとき、笠金村が作った歌・・・巻第6-928~929

訓読 >>> 928おしてる 難波(なには)の国は 葦垣(あしかき)の 古(ふ)りにし里と 人皆(ひとみな)の 思ひやすみて つれもなく ありし間(あひだ)に 績麻(うみを)なす 長柄(ながら)の宮に 真木柱(まきばしら) 太高(ふとたか)敷(し)きて 食…

元正天皇の吉野行幸の折、笠金村が作った歌・・・巻第6-910~912

訓読 >>> 910神(かむ)からか見が欲しからむみ吉野の滝の河内(かふち)は見れど飽かぬかも 911み吉野の秋津(あきづ)の川の万代(よろづよ)に絶ゆることなくまたかへり見む 912泊瀬女(はつせめ)の造る木綿花(ゆふばな)み吉野の滝の水沫(みなわ)…

聖武天皇の吉野行幸の折、笠金村が作った歌・・・巻第6-920~922

訓読 >>> 920あしひきの み山もさやに 落ち激(たぎ)つ 吉野の川の 川の瀬の 清きを見れば 上辺(かみへ)には 千鳥しば鳴く 下辺(しもへ)には かはづ妻呼ぶ ももしきの 大宮人(おおみやひと)も をちこちに 繁(しじ)にしあれば 見るごとに あやに…

巌なす常盤にいませ・・・巻第6-988

訓読 >>> 春草(はるくさ)は後(のち)はうつろふ巌(いはほ)なす常盤(ときは)にいませ貴(たふと)き我(あ)が君 要旨 >>> 春草は、どんなに生い茂ってものちには枯れてしまいます。どうか巌のようにいつまでも末永く元気でいて下さい、貴い我が…

天にます月読壮士賄はせむ・・・巻第6-985~986

訓読 >>> 985天にます月読壮士(つくよみをとこ)賄(まひ)はせむ今夜(こよひ)の長さ五百夜(いほよ)継ぎこそ 986はしきやし間近(まちか)き里の君(きみ)来(こ)むとおほのびにかも月の照りたる 要旨 >>> 〈985〉天にいらっしゃる月読壮士よ、…

諸王・諸臣子等を散禁せしむる時の歌・・・巻第6-948~949

訓読 >>> 948ま葛(くず)延(は)ふ 春日(かすが)の山は うちなびく 春さり行くと 山峡(やまかひ)に 霞(かすみ)たなびき 高円(たかまと)に うぐひす鳴きぬ もののふの 八十伴(やそとも)の男(を)は 雁(かり)がねの 来継(きつ)ぐこのころ …

明日よりは下笑ましけむ・・・巻第6-938~941

訓読 >>> 938やすみしし 我が大君(おほきみ)の 神(かむ)ながら 高(たか)知らせる 印南野(いなみの)の 邑美(おふみ)の原の 荒たへの 藤井の浦に 鮪(しび)釣ると 海人船(あまぶね)騒(さわ)き 塩焼くと 人ぞ多(さは)にある 浦を吉(よ)み…

味織あやにともしく鳴る神の・・・巻第6-913~916

訓読 >>> 913味織(うまごり) あやにともしく 鳴る神の 音(おと)のみ聞きし み吉野の 真木(まき)立つ山ゆ 見下ろせば 川の瀬ごとに 明け来れば 朝霧(あさぎり)立ち 夕されば かはづ鳴くなへ 紐(ひも)解かぬ 旅にしあれば 我(あ)のみして 清き…

元正天皇の吉野行幸の折、笠金村が作った歌・・・巻第6-907~909

訓読 >>> 907滝の上(へ)の 御舟(みふね)の山に 瑞枝(みづえ)さし 繁(しじ)に生ひたる 栂(とが)の樹の いやつぎつぎに 万代(よろづよ)に かくし知らさむ み吉野の 蜻蛉(あきづ)の宮は 神柄(かむから)か 貴くあるらむ 国柄(くにから)か …

大夫の寿く豊御酒に・・・巻第6-989

訓読 >>> 焼太刀(やきたち)の稜(かど)打ち放ち大夫(ますらを)の寿(ほ)く豊御酒(とよみき)に我れ酔(え)ひにけり 要旨 >>> 焼いて鍛えた太刀のかどを鋭く打って、雄々しい男子が祈りをこめる立派な酒に、私は酔ってしまった。 鑑賞 >>> …

御民我れ生ける験あり・・・巻第6-996

訓読 >>> 御民(みたみ)我(わ)れ生ける験(しるし)あり天地(あめつち)の栄(さか)ゆる時にあへらく思へば 要旨 >>> 天皇の御民である私は、まことに生きがいを感じております。天も地も一体となって栄えているこの御代に生まれ合わせたことを思…