大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

柿本人麻呂の歌

柿本人麻呂、泊瀬部皇女と忍坂部皇子に献る歌・・・巻第2-194~195

訓読 >>> 194飛ぶ鳥の 明日香(あすか)の川の 上(かみ)つ瀬に 生(お)ふる玉藻(たまも)は 下(しも)つ瀬に 流れ触(ふ)らばふ 玉藻なす か寄りかく寄り 靡(なび)かひし 夫(つま)の命(みこと)の たたなづく 柔肌(にきはだ)すらを 剣大刀(…

持統天皇の伊勢行幸の折、都に残った柿本人麻呂が作った歌・・・巻第1-40~42

訓読 >>> 40嗚呼見(あみ)の浦に船乗りすらむをとめらが玉裳(たまも)の裾(すそ)に潮(しほ)満つらむか 41釧(くしろ)着く手節(たふし)の崎に今日(けふ)もかも大宮人(おほみやひと)の玉藻(たまも)刈るらむ 42潮騒(しほさゐ)に伊良虞(い…

妻もあらば摘みて食げまし・・・巻第2-220~222

訓読 >>> 220玉藻(たまも)よし 讃岐(さぬき)の国は 国からか 見れども飽かぬ 神(かむ)からか ここだ貴(たふと)き 天地(あめつち) 日月(ひつき)と共に 足り行かむ 神の御面(みおも)と 継ぎ来たる 那珂(なか)の湊(みなと)ゆ 船 浮(う)…

柿本人麻呂、妻が亡くなった後に作った歌(3)・・・巻第2-213~216

訓読 >>> 213うつそみと 思ひし時に 携(たづさ)はり 我(わ)が二人見し 出で立ちの 百枝槻(ももえつき)の木 こちごちに 枝させるごと 春の葉の 茂(しげ)きがごとく 思へりし 妹(いも)にはあれど たのめりし 妹にはあれど 世の中を 背(そむ)き…

柿本人麻呂、妻が亡くなった後に作った歌(2)・・・巻第2-210~212

訓読 >>> 210うつせみと 思ひし時に 取り持ちて わが二人見し 走出(はしりで)の 堤(つつみ)に立てる 槻(つき)の木の こちごちの枝の 春の葉の 茂きが如く 思へりし 妹にはあれど たのめりし 児らにはあれど 世の中を 背(そむ)きし得ねば かぎろひ…

柿本人麻呂、妻が亡くなった後に作った歌(1)・・・巻第2-207~209

訓読 >>> 207天(あま)飛ぶや 軽(かる)の路(みち)は 吾妹子(わぎもこ)が 里にしあれば ねもころに 見まく欲しけど 止まず行かば 人目を多み 数多(まね)く行かば 人知りぬべみ 狭根葛(さねかづら) 後も逢はむと 大船の 思ひ憑(たの)みて 玉か…

有馬皇子を偲ぶ歌・・・巻第2-143~146

訓読 >>> 143磐代(いはしろ)の岸の松が枝(え)結びけむ人は帰りてまた見けむかも 144磐代の野中(のなか)に立てる結び松心も解けずいにしへ思ほゆ 145天(あま)翔(がけ)りあり通ひつつ見らめども人こそ知らね松は知るらむ 146後(のち)見むと君が…

石見の海角の浦廻を浦なしと・・・巻第2-131~134

訓読 >>> 131石見(いはみ)の海 角(つの)の浦廻(うらみ)を 浦なしと 人こそ見らめ 潟(かた)なしと 人こそ見らめ よしゑやし 浦はなくとも よしゑやし 潟はなくとも 鯨魚(いさな)取り 海辺(うみへ)を指して 和多津(にきたづ)の 荒磯(ありそ…

こもりくの泊瀬の山の・・・巻第3-428

訓読 >>> こもりくの泊瀬(はつせ)の山の山の際(ま)にいさよふ雲は妹(いも)にかもあらむ 要旨 >>> 泊瀬の山のあたりに漂っている雲は、亡くなった乙女なのだろうか。 鑑賞 >>> 亡くなった土形娘子(ひじかたのおとめ)を泊瀬山に火葬した時に…

柿本人麻呂が旅の途上に詠んだ歌・・・巻第3-249~256

訓読 >>> 249御津(みつ)の崎(さき)波を恐(かしこ)み隠江(こもりえ)の船なる君は野島(ぬしま)にと宣(の)る 250玉藻(たまも)刈る敏馬(みぬめ)を過ぎて夏草の野島が崎に舟近づきぬ 251淡路(あはぢ)の野島が崎の浜風に妹(いも)が結びし紐…

長皇子が猟路の池で狩猟をなさったとき、柿本人麻呂の作った歌・・・巻第3-239~241

訓読 >>> 239やすみしし わが大君(おほきみ) 高(たか)照らす わが日の皇子(みこ)の 馬(うま)並(な)めて 御狩(みかり)立たせる 若薦(わかこも)を 猟路(かりぢ)の小野に 獣(しし)こそば い這(は)ひ拝(おろが)め 鶉(うづら)こそ い…

持統天皇の吉野行幸の折、柿本人麻呂が作った歌・・・巻第1-38~39

訓読 >>> 38やすみしし わが大君(おほきみ) 神(かむ)ながら 神さびせすと 吉野川 激(たぎ)つ河内(かふち)に 高殿(たかどの)を 高(たか)知りまして 登り立ち 国見をせせば 畳(たたな)はる 青垣山(あをかきやま) 山神(やまつみ)の 奉(ま…

大君は神にしませば・・・巻第3-235

訓読 >>> 大君(おほきみ)は神にしませば天雲(あまくも)の雷(いかづち)の上に廬(いほ)りせるかも 要旨 >>> 天皇は神でいらっしゃるので、天雲にそそり立つ雷の上に仮の宮殿を造っていらっしゃる。 鑑賞 >>> 題詞に「天皇(すめらみこと)、…

楽浪の志賀津の子らが罷道の・・・巻第2-217~219

訓読 >>> 217秋山の したへる妹(いも) なよ竹の とをよる子らは いかさまに 思ひ居(を)れか たく繩(なは)の 長き命(いのち)を 露こそは 朝(あした)に置きて 夕(ゆうへ)には 消(き)ゆといへ 霧こそば 夕に立ちて 朝は 失(う)すといへ 梓弓…

持統天皇の吉野行幸の折、柿本人麻呂が作った歌・・・巻第1-36~37

訓読 >>> 36やすみしし わご大君(おほきみ)の 聞(きこ)しめす 天(あめ)の下に 国はしも 多(さは)にあれども 山川の 清き河内(かふち)と 御心(みこころ)を 吉野の国の 花散らふ 秋津の野辺(のへ)に 宮柱(みやはしら) 太敷(ふとし)きませ…

娘子らが袖布留山の・・・巻第4-501~503

訓読 >>> 501娘子(をとめ)らが袖(そで)布留(ふる)山の瑞垣(みづかき)の久しき時ゆ思ひき我(われ)は 502夏野(なつの)行く牡鹿(をしか)の角(つの)の束(つか)の間も妹(いも)が心を忘れて思へや 503玉衣(たまきぬ)のさゐさゐしづみ家の…

み熊野の浦の浜木綿・・・巻第4-496~499

訓読 >>> 496み熊野(くまの)の浦の浜木綿(はまゆふ)百重(ももへ)なす心は思へど直(ただ)に逢はぬかも 497古(いにしへ)にありけむ人もわがごとか妹(いも)に恋ひつつ寝(い)ねかてずけむ 498今のみのわざにはあらず古(いにしえ)の人そまさり…

名ぐはしき稲見の海の・・・巻第3-303~304

訓読 >>> 303名ぐはしき稲見(いなみ)の海の沖つ波 千重(ちへ)に隠りぬ大和島根(やまとしまね)は 304大君(おほきみ)の遠(とほ)の朝廷(みかど)とあり通(がよ)ふ島門(しまと)を見れば神代(かみよ)し思ほゆ 要旨 >>> 〈303〉名高い稲見…

もののふの八十氏河の・・・巻第3-264

訓読 >>> もののふの八十氏河(やそうじかは)の網代木(あじろき)に いさよふ波の行く方知らずも 要旨 >>> 宇治川の網代木に遮られてただよう水のように、人の行く末とは分からないものだ。 鑑賞 >>> 柿本人麻呂が近江国から大和へ上った時、宇治…

八雲さす出雲の子らが・・・巻第3-429~430

訓読 >>> 429山の際(ま)ゆ出雲(いづも)の子らは霧(きり)なれや吉野の山の嶺(みね)にたなびく 430八雲(やくも)さす出雲(いづも)の子らが黒髪は吉野の川の沖になづさふ 要旨 >>> 〈429〉山の間から湧き立つ雲のように溌剌としていた出雲の娘…

近江の旧都を見て悲しむ・・・巻第1-29~31

訓読 >>> 29玉襷(たまたすき) 畝火(うねび)の山の 橿原(かしはら)の 日知(ひじり)の御代ゆ 生(あ)れましし 神のことごと 樛(つが)の木の いやつぎつぎに 天(あめ)の下 知らしめししを 天(そら)にみつ 大和を置きて あをによし 奈良山を越…

遣唐使を見送る歌・・・巻第13-3253~3254

訓読 >>> 3253葦原(あしはら)の 瑞穂(みずほ)の国は 神(かむ)ながら 言挙(ことあ)げせぬ国 しかれども 言挙げぞ我(わ)がする 言幸(ことさき)く ま幸(さき)くいませと つつみなく 幸(さき)くいまさば 荒磯波(ありそなみ) ありても見むと…

軽皇子が安騎の野にお宿りになった時、柿本人麻呂が作った歌・・・巻第1-45~48

訓読 >>> 45やすみしし わが大君 高照らす 日の皇子 神ながら 神さびせすと 太(ふと)敷かす 京(みやこ)を置きて 隠口(こもりく)の 泊瀬(はつせ)の山は 真木(まき)立つ 荒山道(あらやまみち)を 石(いは)が根 禁樹(さへき)おしなべ 坂鳥の …

ともしびの明石大門に・・・巻第3-254

訓読 >>> ともしびの明石(あかし)大門(おほと)に入(い)らむ日や榜(こ)ぎ別れなむ家のあたり見ず 要旨 >>> 明石の海門を通過するころには、いよいよ家郷の大和の山々とも別れることとなるのだ。 鑑賞 >>> 柿本人麻呂が、船旅の途上で読んだ…