訓読 >>>
3245
天橋(あまはし)も 長くもがも 高山(たかやま)も 高くもがも 月読(つくよみ)の 持てる変若水(をちみづ) い取り来て 君に奉(まつ)りて 変若(をち)得てしかも
3246
天(あめ)なるや月日(つきひ)のごとく我(あ)が思へる君が日に異(け)に老ゆらく惜(を)しも
要旨 >>>
〈3245〉天へと通じる天橋よ、もっと長くなっておくれ。高山よ、もっと高くなっておくれ。そうしたら、お月様に行って、若返りの水をいただいてきて、貴方に捧げて、若返っていただくのに。
〈3246〉天にあるお日様やお月様のように思っている貴方が、日に日に老いていかれるのが惜しくてなりません。
鑑賞 >>>
女が、愛する男が老いていくのを悲しんで詠った長歌と反歌。3245の「天橋」は、天へ昇る階段。天の浮橋。「もがも」は、願望。「月読」は、月の神様。「変若水」は、文字通り「若く変わる」、若返りの水で、月の神様が持っているとされました。道教の神仙思想のもので、日本でも奈良朝時代には広くいわれていたといいます。集中にも巻第4-627・628などに例が見られます。「い取り」の「い」は、接頭語。「てしかも」は、~したい。3246の「天なるや」の「なる」は、~にある。「や」は、感動の助詞。「日に異に」は、日に日に。
神仙思想
古代中国における、東方海上に蓬莱(ほうらい)、方丈(ほうじょう)、瀛州(えいじゅう)の三島の神仙島があるなど、超自然的な楽園と、そこに神通力をもった仙人の実在を信じる思想で、道教思想の基礎となり、民間の説話や神話にも影響を与えました。不老不死の仙人や、異境に楽園を見出そうとしたり、養生・錬丹・方術といった、いわゆる神仙術により、神人・仙人になろうとしたり、不老不死の薬を探索したり、養生法などが説かれました。
戦国時代に興った神仙思想は、秦・漢代に流行し、魏晋時代に頂点に達しました。古代日本にも伝わり、日本の思想・信仰・民俗・文化に影響を与えました。飛鳥時代には、漢詩の世界に先駆けて神仙世界が受容され、『懐風藻』には神仙境や仙人を示す語が数多く用いられています。