大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

明日香の風・・・巻第1-51

訓読 >>>

采女(うねめ)の袖(そで)吹きかへす明日香風(あすかかぜ)都を遠みいたづらに吹く

 

要旨 >>>

采女たちの美しい衣の袖を吹き返していた明日香の風も、今は都も遠くてむなしく吹くばかりだ。

 

鑑賞 >>>

 持統天皇によって、飛鳥御浄原から藤原京に遷都されたのが694年のこと。この歌はそれから間もないころ、志貴皇子(しきのみこ)が廃都となった飛鳥御浄原に立ち寄り、吹く風を詠んだものです。

 志貴皇子天智天皇の第七皇子。近江朝の生き残りで、すでに中央から外れた立場にありました。『万葉集』には6首の歌を残し、哀感漂う歌が多く、すぐれた歌人との評価が高い人です。

 「采女(うねめ)」は天皇の食事など日常の雑役に奉仕した女官のことで、郡の次官以上の者の子女・姉妹で容姿に優れた者が貢物として天皇に奉られました。天皇以外は近づくことができず、臣下との結婚は固く禁じられました。遷都に伴って采女たちも飛鳥を去ったのです。なお、皇子の母は越道君(こしのみちのきみ)の娘というので、天智天皇采女だったのかもしれません。

 

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