大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

しまった、とんだ女だった!・・・巻第7-1264

訓読 >>>

西の市(いち)にただ独り出でて目並(めなら)べず買ひてし絹の商(あき)じこりかも

 

要旨 >>>

西の市にたった一人で出かけて、見比べもせずに自分だけで見て買ってしまった絹は、買い損ないの大誤算だったよ。

 

鑑賞 >>>

 「商じこり」は商売上の失敗、買いそこないの意。「安物買いの銭失い」だったのか、よく確かめもせずに買い物をしたことを嘆いている歌ですが、実は「しまった、身分は高いけれど、とんだ女を掴んでしまった」ことを喩えた自嘲の歌だともいわれます。いったい、どんな相手を選んでしまったのでしょうか。

 平城京には、「西の市」「東の市」の物品売買のための市があり、山の民、海の民、里の民が集う「市」で、恋が芽生えることも多かったようです。つまり、「市」はナンパの名所でもあり、「歌垣」とよばれる集団見合いのような行事も行われていました。なお、この歌を、クズ男と結婚して後悔する女の歌と見る向きもあるようです。

 この平城京の西の市・東の市は、自由市場ではなく、政府が管理する公設市場でした。左右京職の下にいる東西の市司(いちのつかさ)が、物品の価格や品質などについてこまかく統制を加えていました。毎月15日以前は東の市が開き、その後は西の市が開き、まず政府側の取引が先に行われ、その売買が終わった後で、一般の人々が取引が行われました。扱われる品は、米穀・野菜・果物・海藻・魚介類、調味料・食器・布団・衣類などの日用品から、瑠璃玉や白檀などの貴重品まで種々様々でした。

 

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