訓読 >>>
巻向(まきむく)の檜原(ひばら)もいまだ雲居ねば小松が末(うれ)ゆ沫雪(あわゆき)流る
要旨 >>>
巻向山の檜林にまだ雲もかかっていないのに、松の梢のあたりから沫雪が流れ飛んでくる。
鑑賞 >>>
『柿本人麻呂歌集』から「冬の雑歌」1首です。『万葉集』には題詞に人麻呂作とある歌が80余首あり、それ以外に『柿本人麻呂歌集』から採ったという歌が360余首あります。『柿本人麻呂歌集』は『万葉集』成立以前の和歌集で、人麻呂が2巻に編集したものとみられています。ただし、それらの中には明らかな別人の作や伝承歌もあり、すべてが人麻呂の作というわけではありません。題詞もなく作者名も記されていない歌がほとんどなので、それらのどれが人麻呂自身の歌でどれが違うかのかの区別もできません。
この歌も作者未詳で、ふつうなら空に雲がかかってから雪が降り始めるのに、先に雪が降り始めたという自然現象が詠まれています。「巻向」は、奈良県桜井市三輪にある巻向山のこと。「檜原」は、ヒノキの林、「末」は、木の枝葉の先端、「淡雪」は、うっすらと積もってすぐに消えていく雪のこと。雪が「流れる」というのは、強い横風によって吹きなぐられるように降る状態を言っているのでしょう。巻向山の檜原の遠景に、近景の松の枝を配して、急激に変化しつつある自然に興味を持って歌ったものです。