訓読 >>>
古(ふ)りにし嫗(おみな)にしてやかくばかり恋に沈まむ手童(たわらは)のごと
要旨 >>>
使い古したお婆さんなのに、まあどうしたことでしょう、これほど恋に没頭するなんて。まるで幼子みたい。
鑑賞 >>>
石川郎女(いしかわのいらつめ)が大伴宿奈麻呂(おおとものすくなまろ)に贈った歌です。宿奈麻呂は大伴安麻呂の三男で、家持の叔父にあたります。なおこの歌の後には「一に云ふ」として下3句が「恋をだに忍びかねてむ手童のごと」の別ヴァージョンが追記されており、それによれば、「恋すら我慢できないものなのか、聞き分けのない幼子のように」の意味になります。「幼子のように恋に没頭する」というよりは、こちらのほうがしっくりくる感じですが、如何でしょう。
この時の石川郎女は40歳くらいだったとされます。『万葉集』には石川郎女による相聞歌が8首載っており、相手の男性は合計7名、いずれもそのころの代表的な貴公子、美男で、そうした男性と浮名を流した女性として聞こえていたようです。ただ作歌時期の隔たりもあり、すべてを同一の郎女の作と見ることは困難なようです。
それにしても、当時は、40歳にしてもはや「古りにし媼(おみな)」だったのでしょうか。今だったら、40歳でもきれいで色っぽい女性はたくさんいらっしゃいますけどね。私なんかから見たら、まだまだバリバリのギャルですよ。