訓読 >>>
多摩川にさらす手作(てづく)りさらさらに何(なに)そこの児(こ)のここだ愛(かな)しき
要旨 >>>
多摩川の水にさらさらとさらして仕上げる手織りの布のように、さらにさらにこの娘(こ)をこんなに愛しく思うのか。
鑑賞 >>>
武蔵の国(東京都・神奈川県・埼玉県にまたがる地域)の歌です。作者の恋人は、毎日手織りの布を織ってはさらす仕事をする娘なのでしょう、せっせと働いているその娘が愛しくてたまらないと言っています。
上2句は「さらさらに」を導く序詞になっています。「さらす」は布を水洗いしたり、日に干したりして、白く仕上げる工程のこと。「ここだ」ははなはだの意。この時代、多摩川河畔の地域では、手織りの麻布を税の一種である「調」として納めていました。今もその名残である「調布」という地名が残っています。