大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

あぶら火の光に見ゆる・・・巻第18-4086

訓読 >>>

あぶら火の光に見ゆるわが縵(かづら)さ百合(ゆり)の花の笑(ゑ)まはしきかも

 

要旨 >>>

燈火に照り映える私の髪飾りの、小さな百合の花のなんとほほえましいことよ。

 

鑑賞 >>>

 大伴家持が、越中守として赴任していた時の歌です。初夏の一日、越中国司の役人・秦伊美吉石竹(はだのいみきいわたけ)が、家持のほか国府の役人たちを自宅に招いて宴会を開きました。その折に、石竹が百合の花でかづら(髪飾り)を三つ作り、高坏に据えて賓客に捧げました。各々がそれを見て歌を詠んだといいます。何とも風情のある宴会ではありませんか。

 「あぶら火」は灯心を油に浸して点灯した明かりのこと。「さ百合」の「さ」は接頭語で、ここでは「小さい、細い」の意味で使われているようです。「小百合」という女の子の可愛らしい名前がありますが、紛れもない大和言葉に由来する名付けでありますね。

 なお、斎藤茂吉はこの歌を評し、「結句の『笑まはしきかも』は、美しくて楽しくて微笑せしめられる趣である。美しい花をあらわすのに、感覚的にいうのも家持の一特徴だが、『あぶら火の光に見ゆる』と言ったのは、流石に家持の物を捉える力量を示すものである」と言っています。

 

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