大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

沫雪降れり庭もほどろに・・・巻第10-2323

訓読 >>>

わが背子(せこ)を今か今かと出で見れば沫雪(あわゆき)降れり庭もほどろに

 

要旨 >>>

あの方の訪れを今か今かとお待ちして戸口に出てみると、沫雪が降り積もっている、庭にうっすらと。

 

鑑賞 >>>

 「雪を詠む」歌。「沫雪」は泡のように消えやすい雪。「ほどろに」は語義未詳ながら、「はだら」「はだれ」の言葉との類似から、雪が薄く降り積もったさまではないかとされます。巻第8-1639にも、大伴旅人による「沫雪のほどろほどろに降り敷けば奈良の都を思ほしゆるかも」という歌があります。

 僭越ながら、不肖私が想像する「ほどろに」は、雪が薄く積もるというより、雪の降り始め、あるいは雪がそれほど強く降っていない時に、庭の中の、ある場所は白く変わりつつあるけど、ある場所ではまだ黒い地面のままという、そんなまだら模様のような景色なのですが、いかがでしょうか。

 なお、ここでの「ほどろに」の表現について、斎藤茂吉は次のように言っています。「単に雪霜の形容であろうが、相手を思い、慕い、懐かしむような場合に使っているのは注意すべきで、これも消えやすいという特色から、おのずからその処に関連せしめたものであろう。・・・どうしても、この『ほどろに』には、何かを慕い、何かを要求し、不満を充たそうと願うような語感のあると思うのは、私だけの錯覚であろうか」。また、「今か今か」と繰り返しているのも、女の語気が出てあわれ深い、とも。

 

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