大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

三重に結ふべく我が身はなりぬ・・・巻第13-3273

訓読 >>>

二つなき恋をしすれば常(つね)の帯(おび)を三重に(みへ)結ふべく我(あ)が身はなりぬ

 

要旨 >>>

二度とない恋に苦しめられ、普段は一重に結ぶ帯も、三重にも結べる身になってしまった。

 

鑑賞 >>>

 片思いの恋に苦しむあまり、やつれてしまった男の歌です。ふだんは一重に結ぶ帯が三重に巻けるほど痩せてしまったとうのですからよっぽどです。もっともこの時代、「三重に結ふべく」というのは、ひどく痩せた状態を表す表現で、特に恋が原因でやつれてしまったときによく用いられたといいますから、実際にそうなったのとは違うようです。

 作者がここまで痩せた経緯は、この歌の前の長歌(3272)で詠まれており、それによれば、「ずっと気にかけていた娘を、よその里の男が我が物にしたと聞き、気が動転して居ても立ってもいられず、お先真っ暗になり、住み慣れた我が家ですら、旅寝のように落ち着かず、胸が苦しくて、晴らすこともできずに思い乱れ、この恋心の千に一つも彼女に知られることもなく、ただいたずらに恋い焦がれるばかりで、息も絶え絶えになっている」というのです。まことに気の毒です。

 

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巻第13について

 作者および作歌年代の不明な長歌反歌を集めたもので、部立は雑歌・相聞・問答歌・譬喩歌(ひゆか)・挽歌の五つからなっています。