訓読 >>>
風に散る花橘(はなたちばな)を袖(そで)に受けて君がみ跡(あと)と偲(しの)ひつるかも
要旨 >>>
風に舞い散る橘の花びらを袖に受け止め、その香りをあなたの形見のように偲んでいます。
鑑賞 >>>
「花を詠む」歌。「橘」は、『日本書紀』によれば、垂仁天皇の代に、非時香菓(ときじくのかくのみ:時を定めずいつも黄金に輝く木の実)を求めよとの命を受けた田道間守(たじまもり)が、常世(仙境)に赴き、10年を経て、労苦の末に持ち帰ったと伝えられる植物です。しかしその時、垂仁天皇はすでに崩御しており、それを聞いた田道間守は、嘆き悲しんで天皇の陵で自殺しました。次代の景行天皇が田道間守の忠を哀しみ、垂仁天皇陵近くに葬ったとされています。そうした伝説が影響してか、宮廷の貴族たちは好んで庭園に橘を植えたといいます。