大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

あの娘が踏む土になりたい!・・・巻第11-2693

訓読 >>>

かくばかり恋ひつつあらずは朝に日(け)に妹(いも)が踏むらむ地にあらましを

 

要旨 >>>

これほどに恋し続けるくらいなら、朝も昼も、あの娘が踏んでいる土になったほうがましだよ。

 

鑑賞 >>>

 恋わずらいに苦しむ男の歌です。どうにもこうにも彼の思いは遂げられそうもないようで、もし好きなあの娘(こ)に触れることができるのなら、たとえあの娘が踏む土になったって構わない、と言っています。健気な男の心の叫びといえなくもありませんが、やや危ない感じもしないではありません。そういえば学生時代に耳にしたのが、誰かが「好きな子の自転車のサドルになりたい」と言ったとか言わないとか・・・。

 もっとも、この歌のように、逢えずに苦しむよりは、何かの物になって相手の身に触れていたいと詠んだ歌は、男女を問わず『万葉集』には少なくないのですが、王朝の歌人たちにそれと似た作はまず見られません。後には忘れ去られた「万葉のこころ」といえましょう。

 

f:id:yukoyuko1919:20220122080509j:plain