大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

七日降らば七夜来じとや・・・巻第10-1917

訓読 >>>

春雨に衣(ころも)は甚(いた)く通らめや 七日(なぬか)し降(ふ)らば七夜(ななよ)来(こ)じとや

 

要旨 >>>

あなたは春雨が降ったので来られなかったとおっしゃるけれど、衣が濡れ通るというほどではないでしょう。それなら、もし雨が七日間降り続いたら、七晩ともおいでにならないとおっしゃるのですか。

 

鑑賞 >>>

 「雨に寄せる歌」と題された歌群のなかの1首です。万葉の「通い婚」の時代にあっては、女が男の訪れを待つ歌が数多くあります。この歌もその一つですが、ここでは、はっきりしない男を激しく責め立てています。あたかも当時のカップルの会話をそのまま聞いているかのように感じられて、何だかほのぼのとします。斎藤茂吉も、「女が男に迫る語気まで伝わる歌で、如何にもきびきびと、才気もあっておもしろいものである。こういう肉声をさながら聴き得るようなものは、平安朝になるともう無い。和泉式部がどうの、小野小町がどうのと云っても、もう間接な機智の歌になってしまって居る」と言っています。

 「甚く」は、ひどく。「通らめや」の「通る」は濡れ通る。「や」は反語。「七日し」の「し」は強意。

 

f:id:yukoyuko1919:20220213045020j:plain