大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

浅茅が原のつぼすみれ・・・巻第8-1449

訓読 >>>

茅花(つばな)抜く浅茅(あさぢ)の原のつぼすみれ今盛りなり我(あ)が恋ふらくは

 

要旨 >>>

ツバナを引き抜いて食べられる春がやってきました。その浅茅が原に、つぼすみれが真っ盛りに咲いています。そのように、あなたを恋しく思う気持ちで私の胸はいっぱいです。

 

鑑賞 >>>

 女から男への恋歌のような趣ですが、題詞に「 大伴の田村の家の大嬢、 妹・坂上大嬢に与ふる歌」とあり、姉が妹に贈った歌です。二人は異母姉妹で、父は大伴宿奈麻呂。宿奈麻呂の家は田村の里にあり、そこで生まれ育った姉が田村大嬢と呼ばれたようです。

 一方、坂上大嬢は、『万葉集』に女性歌人としてもっとも多くの歌が載っている坂上朗女の娘です。こちらは坂上(所在未詳)に家があったため、母は坂上朗女、娘は坂上大嬢と呼ばれました。異母姉妹は離れて暮らす場合が多かったので疎遠になりがちなのに、この二人はとても仲が良かったようです。坂上大嬢は、のちに大伴家持の正妻になった女性です。

 上3句は「今盛りなり」を導く序詞。「茅花」はイネ科の野草チガヤの穂で、食用にされていました。「つぼすみれ」は、やや湿った草地や林内にふつうに見られるスミレ科の植物で、茎がよく伸びて地表を這い、花は高く出ないので、あまり目立ちません。

 

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