大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

咲きにほえる桜花・・・巻第10-1869~1872

訓読 >>>

1869
春雨(はるさめ)に争ひかねて我が宿の桜の花は咲きそめにけり

1870
春雨はいたくな降りそ桜花いまだ見なくに散らまく惜しも

1871
春されば散らまく惜しき梅の花しましは咲かず含(ふふ)みてもがも

1872
見わたせば春日の野辺(のへ)に霞(かすみ)立ち咲きにほへるは桜花かも

 

要旨 >>>

〈1869〉春雨がせかすように降るので、我が家の庭の桜の花が咲いたよ。

〈1870〉春雨よ、そんなに強く降らないでおくれ、桜の花をまだ見ていないので、散ってしまっては惜しいではないか。

〈1871〉春になったら散るのが惜しいと思う梅の花、まだしばらくは咲かずにつぼみのままでいてほしい。

〈1872〉はるか遠くを見渡すと、春日野の辺りに霞が立ち、花が一面に咲いている。あれは桜の花だろうか。

 

鑑賞 >>>

「花を詠む」歌を4首。「さくら」の名前の由来については、花の咲くようすがいかにもうららかなので「さきうら」と呼び、それが「さくら」に転化したという説や、『古事記』に出てくる木花之開耶姫(このはなのさくやひめ)の「開耶(さくや)」が起源になったなど、さまざまあります。

 なお、『万葉集』で詠まれている桜の種類は「山桜」です。「ソメイヨシノ」は江戸末期に染井村(東京)の植木屋によって作り出された品種で、葉が出る前に花が咲き、華やかに見えることからたちまち全国に植えられ、今の桜の名所の主役となっています。

 

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