大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

狭野方は実にならずとも・・・巻第10-1928~1929

訓読 >>>

1928
狭野方(さのかた)は実にならずとも花のみに咲きて見えこそ恋のなぐさに

1929
狭野方(さのかた)は実になりにしを今さらに春雨(はるさめ)降りて花咲かめやも

 

要旨 >>>

〈1928〉狭野方は実にならなくてもよいから、せめて花だけでも咲いて見せておくれ、実らぬ恋の慰めに。 

〈1929〉狭野方はとっくに実になってしまっているのに、春雨が降ってきたからといって、今さら花を咲かせはしません。

 

鑑賞 >>>

「狭野方」は未詳ながらアケビかといわれます。アケビは林の木に巻き付いて生長するつる性植物で、春まだ早いころに、一つの株に姿や大きさが異なる雄花と雌花が咲きます。「狭野方」を詠んだ歌は、『万葉集』にはこの2首のみです。

 1928は、二人の仲が実らずともよいから交際だけでもしてほしいと男が言い、1929は、女が人妻であることを匂わせて男の誘いをかわしています。「今さらに春雨降りて」には、今さら他の男に言い寄られても、の意が込められています。