大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

蜻蛉羽の袖振る妹を・・・巻第3-376

訓読 >>>

蜻蛉羽(あきづは)の袖振る妹(いも)を玉くしげ奥に思ふを見たまへ我(あ)が君

 

要旨 >>>

とんぼの羽のように薄く美しい袖をひるがえして舞うあの子を、私は秘蔵の思いでいとしく思っているのです、よくよく御覧になって下さい、我が君よ。

 

鑑賞 >>>

 湯原王(ゆはらのおおきみ)が宴席で詠んだ歌で、王が「我が君」と呼ぶ親しい客をもてなし、王の侍女と思われる者に舞を舞わせ、その挨拶として詠んだものです。人に物を贈る時などに、その物が良い物であることや、その物を得るのに苦労したことをいうのが上代の風習であったように、ここでも、今舞わせている女は、自分にとっては大切な者だというのが礼であって、その心をもって詠んでいます。さらには、王がいかにその女を愛しているかを露わに表現しています。

 「蜻蛉羽」は、蜻蛉(とんぼ)の羽の意で、薄く、軽く、美しいさまを表現する語。「玉くしげ」は「奥」の枕詞。「奥に思ふ」は、秘蔵に思っている意。

 湯原王は、天智天皇の孫、志貴皇子の子で、兄弟に光仁天皇春日王海上女王らがいます。天平前期の代表的な歌人の一人で、父の透明感のある作風をそのまま継承し、またいっそう優美で繊細であると評価されています。

 

f:id:yukoyuko1919:20220404172910j:plain