大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

遣新羅使人の歌(4)・・・巻第15-3635,3671

訓読 >>>

3635
妹(いも)が家路(いへぢ)近くありせば見れど飽かぬ麻里布(まりふ)の浦を見せましものを

3671
ぬばたまの夜(よ)渡る月にあらませば家なる妹(いも)に逢ひて来(こ)ましを

 

要旨 >>>

〈3635〉もしも妻がいる家への道が近くにあったなら、見ても見飽きることのない麻里布の浦を見せてやりたいものを。

〈3671〉夜空を自由に行き来できる月であったなら。家にいる妻に逢って、またここに戻ってくるものを。

 

鑑賞 >>>

 新羅に向かう使者たちが、海路の途上で詠んだ歌です。3635の「麻里布の浦」は、山口県岩国市付近の海で、岩国市内には麻里布という地名があります。まだ海を知らない妻に見せてやりたいと言っています。3636は、筑前国(福岡県)の海浜で月を眺めながら、我が家が近くにあること、わが身を月になすことを空想しています。

 これらの歌の「・・・せば・・・まし(もの)を」の表現は万葉集にしばしば見られ、ありえないことを空想し、それを願望する心を表しています。3671の「ぬばたまの」は「夜」の枕詞。