大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

道に逢ひて笑まししからに・・・巻第4-624

訓読 >>>

道に逢ひて笑(ゑ)まししからに降る雪の消(け)なば消ぬがに恋ふといふ我妹(わぎも)

 

要旨 >>>

道で出逢って微笑みかけられた人が、死ぬなら死んでもいいというほど恋しているという噂のあるそなたよ。

 

鑑賞 >>>

 聖武天皇の御製歌で、酒人女王(さかひとのおおきみ)に賜った歌です。酒人女王は、題詞の下に穂積皇子(ほずみのみこ)の孫娘とあるほかは経歴不明。「道に逢ひて」は、女王が道で人に逢って、の意。その人は男性で、身分のある人とみえますが、誰かは分かりません。「笑ます」は「笑む」の尊敬語。「降る雪の」は「消」の枕詞。「がに」は、ごとくに。

 天皇が、何かの折に女王のそのような華のある噂を聞き、興を感じて賜ったというものです。皇室内ならではの、温かく大らかな品位が窺える歌柄です。なお、この歌の解釈を「私と道で会って、私が微笑んだので、雪の消え入るばかりにお慕いしますというお前よ」とするものもあります。

 

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