大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

娘子らが赤裳の裾の濡れて・・・巻第7-1274

訓読 >>>

住吉(すみのえ)の出見(いでみ)の浜の柴な刈りそね 娘子(おとめ)らが赤裳(あかも)の裾(すそ)の濡れて行(ゆ)かむ見む

 

要旨 >>>

住吉の出見の浜の柴は刈らないでくれ。乙女らが赤い裳裾を濡らしたまま行くのをそっと見たいと思うから。

 

鑑賞 >>>

 『柿本人麻呂歌集』から旋頭歌(5・7・7・5・7・7)。「住吉」は現在の大阪市住吉区を中心とした一帯で、万葉時代から港として知られていました。「出見の浜」は住吉神社の西の海岸とされますが、現在は埋め立てられていて具体的な所在は分かりません。「な~そね」は禁止。「裳」は女性が腰から下に着た衣。赤色がふつうで、もともとは官女の装いだったようです。

 男が、出見の浜で柴を苅っている人に言いかけた形ですが、実際にそうしたというわけでなく、そう思ったというにすぎないもので、いわゆるスケベ心の吐露です。乙女らが裳裾を濡らして下半身にまとわりつかせながら歩く姿は肌が透けて見え、ずいぶん色っぽく見えたのでしょう。

 『万葉集』には62首の旋頭歌があり、うち35首が『柿本人麻呂歌集』に収められています。いずれも作者未詳歌と考えられており、万葉の前期に属する歌とされます。旋頭歌の名称の由来は、上3句と下3句を同じ旋律に乗せて、あたかも頭(こうべ)を旋(めぐ)らすように繰り返すところからの命名とする説がありますが、はっきりしていません。その多くが、上3句と下3句とで詠み手の立場が異なる、あるいは、上3句である状況を大きく提示し、下3句で説明や解釈を加えるかたちになっています。

 

柿本人麻呂歌集』について

 『万葉集』には題詞に人麻呂作とある歌が80余首あり、それ以外に『人麻呂歌集』から採ったという歌が375首あります。『人麻呂歌集』は『万葉集』成立以前の和歌集で、人麻呂が2巻に編集したものとみられています。

 この歌集から『万葉集』に収録された歌は、全部で9つの巻にわたっています(巻第2に1首、巻第3に1首、巻第3に1首、巻第7に56首、巻第9に49首、巻第10に68首、巻第11に163首、巻第12に29首、巻第13に3首、巻第14に5首。中には重複歌あり)。

 ただし、それらの中には女性の歌や明らかに別人の作、伝承歌もあり、すべてが人麻呂の作というわけではないようです。題詞もなく作者名も記されていない歌がほとんどなので、それらのどれが人麻呂自身の歌でどれが違うかのかの区別ができず、おそらく永久に解決できないだろうとされています。

 文学者の中西進氏は、人麻呂はその存命中に歌のノートを持っており、行幸に従った折の自作や他作をメモしたり、土地土地の庶民の歌、また個人的な生活や旅行のなかで詠じたり聞いたりした歌を記録したのだろうと述べています。