大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

落ち激ち流るる水の・・・巻第9-1713~1714

訓読 >>>

1713
滝の上の三船(みふね)の山ゆ秋津(あきつ)べに来鳴きわたるは誰呼子鳥(たれよぶこどり)

1714
落ち激(たぎ)ち流るる水の磐(いは)に触(ふ)り淀(よど)める淀に月の影(かげ)見ゆ

 

要旨 >>>

〈1713〉吉野川の滝の上にそびえる御船山から、秋津野にかけて鳴き渡ってくるのは、誰を呼んでいる呼子鳥なのか。

〈1714〉勢いよくたぎって流れてきた水が、巌石に突き当たって淀んでいる。その淀みに月影が映っている。

 

鑑賞 >>>

 題詞に「吉野離宮行幸の歌」とある作者未詳歌で、養老7年(723年)の元正天皇行幸の時の歌ではないかとされます。1713の「三船の山」は吉野離宮の上流にある山。「秋津辺」は離宮のある秋津野の辺り。「誰呼子鳥」は誰を呼ぶ呼子鳥かで、呼子鳥は今のカッコウ

 1714は水面の月光を見ている光景で、ほとばしる水勢の烈しさから、岩陰に淀む水面の静けさへとなだらかに移行させ、とても印象明瞭な歌になっています。賀茂真淵は、これら2首の風格からして、人麻呂の作ではなかろうかと言っており、斎藤茂吉もこの歌を秀歌の一つに掲げています。