大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

卯の花の咲き散る岡ゆ・・・巻第10-1976~1977

訓読 >>>

1976
卯(う)の花の咲き散る岡ゆ霍公鳥(ほととぎす)鳴きてさ渡る君は聞きつや

1977
聞きつやと君が問はせる霍公鳥(ほととぎす)しののに濡れてこゆ鳴き渡る

 

要旨 >>>

〈1976〉卯の花が咲き散る岡の上を、霍公鳥が鳴いて渡っていきましたよ、あなたは聞きましたか?

〈1977〉鳴き声を聞いたかとお尋ねの霍公鳥は、びっしょりと濡れながら、ここから鳴いて渡っていきました。

 

鑑賞 >>>

 卯の花が散ると、霍公鳥(ほととぎす)はその地を去らねばならないと考えられていたようです。1976は妻が夫に贈った歌で、霍公鳥が、私が住んでいる岡を通って、そちらへ鳴いて行きましたが、あなたは聞きましたかといって、夫のあわれを汲む心を問うと同時に、夫の自分に対する心の足りないのを織り交ぜていったものです。「岡ゆ」の「ゆ」は、~を通って。「さ渡る」の「さ」は接頭語。

 1977は、それに対し夫が答えた歌。「問はせる」は「問ふ」の敬語。「しののに」は「しとどに」の古語で、びっしょりと。雨か霧によってびっしょりと濡れた霍公鳥を、あわれを知る自分の涙に濡れて、の意でいっています。いずれの歌も、それぞれの気持ちを婉曲的に込め、技巧を凝らした味わい深い歌となっています。