大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

幸ひのいかなる人か・・・巻第7-1411

訓読 >>>

幸(さきは)ひのいかなる人か黒髪(くろかみ)の白くなるまで妹(いも)が音(こゑ)を聞く

 

要旨 >>>

自分は恋しい妻をもう亡くしたが、白髪になるまで二人とも健やかで、妻の声を聞くことができる人は何と幸せな人だろう、うらやましいことだ。

 

鑑賞 >>>

 「挽歌」の中にある歌ですが、直接に妻の死を悲しんでいるのではなく、共白髪で年老いた幸せな夫婦を羨むかたちで、亡き妻を哀惜しています。中国の『詩経』に由来する「偕老洞穴」という言葉がありますが、それが夫婦にとって至福のこととして言っています。若いころには何も思わなくとも、老齢にさしかかって初めてしみじみと共感できる歌であり、また、妻に先立たれた高齢男性にとっては、まことに胸の痛む歌ではないでしょうか。幸福の価値は、失ってからでないと分からないのかもしれません。斎藤茂吉は、結句の「声を聞く」の「聞く」だけで詠歎の響があると言っています。