大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

防人の歌(8)・・・巻第20-4346

訓読 >>>

父母(ちちはは)が頭(かしら)かき撫(な)で幸(さ)くあれて言ひし言葉(けとば)ぜ忘れかねつも

 

要旨 >>>

父と母とがかわるがわるにやさしく頭をかき撫でて、元気に過ごしてほしいと言った言葉が忘れられない。

 

鑑賞 >>>

 駿河国の防人、丈部稲麻呂(はせべのいなまろ)の歌。「頭かき撫で」というのは単なる愛撫ではなく、祝の言葉に伴わせる一つの呪法ではなかったかともいわれます。「幸(さ)く」は「さきく」の方言。「あれて」の「て」は「と」の方言。「言葉ぜ」の「ぜ」は「ぞ」の方言。

 防人歌には、父母や妻子を思う歌が数多くあります。一方、王朝の歌では、親への慕情を詠うものは極めてまれであり、平安期以降の旅の歌に、父母を思う作はほとんど見られなくなっています。人の心の最たる「まこと」であるはずなのに、雅(みやび)の世界にはふさわしくないとされたのでしょうか。