訓読 >>>
飯(いひ)食(は)めど うまくもあらず 行き行けど 安くもあらず あかねさす 君が心し忘れかねつも
要旨 >>>
ご飯を食べても美味しくないし、いくら歩き回っても心は落ち着きません。あなたの真心を忘れることができません。
鑑賞 >>>
左注に「伝へて云はく」と、次のような説明があります。「佐為王(さいのおおきみ)のそばに仕える召使いの女がいた。夜も昼も仕えているので、夫になかなか逢えない。心は鬱々として晴れず恋しくてたまらない。すると、宿直の夜に夢の中で夫と逢い、驚いて目覚め、手探りで抱きつこうとしたが、まったく手に触れることができない。そこで涙にむせんですすり泣き、大きな声でこの歌を吟詠した。王はこれを聞いてかわいそうに思い、それからはずっと宿直を免じた」。
「佐為王」は葛城王(橘諸兄)の弟で、天平8年に兄とともに臣籍に下り、橘宿禰の姓氏を賜わった人。「あかねさす」は血色のよい意で、「君」の枕詞。