訓読 >>>
673
まそ鏡(かがみ)磨(と)ぎし心をゆるしてば後(のち)に言ふとも験(しるし)あらめやも
674
真玉(またま)つくをちこち兼ねて言(こと)は言へど逢ひて後(のち)こそ悔(くい)にはありといへ
要旨 >>>
〈673〉まそ鏡のように清く研ぎ澄ましていた心を、ひとたび緩めて許してしまったら、後でどんなに悔やんでも何の甲斐もありません。
〈674〉玉を緒に通し、こちらとあちらを結んで輪にするように、今も将来もずっと変わらないと口ではおっしゃいますが、逢ってしまった後できっと悔いるものだといいますから。
鑑賞 >>>
大伴坂上郎女(おおとものさかのうえのいらつめ)の歌。男女関係が自由で開放的だった時代にありながらも、聡明な女性らしく、結婚を前にし、将来を思う緊張した心をうたっています。
673の「まそ鏡」は白銅製の鏡で、「磨ぐ」の枕詞。674の「真玉つく」の「真」は美称、「玉つく」は玉を身に着ける意で、「をちこち」の枕詞。「をちこち」は、あちらこちら。ここでは将来と現在の意。