大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

山も狭に咲ける馬酔木の・・・巻第8-1428

訓読 >>>

おしてる 難波(なには)を過ぎて うちなびく 草香(くさか)の山を 夕暮(ゆふぐれ)に 我(わ)が越え来れば 山も狭(せ)に 咲ける馬酔木(あしび)の 悪(あ)しからぬ 君をいつしか 行きてはや見む

 

要旨 >>>

難波を過ぎて、草香の山を夕暮れに越えて来ると、山も狭しと咲いている馬酔木、その名のように悪(あ)しくなどとはとても思えない優しいあなたに、いつになったらお逢いできるかと、早く行ってお目にかかりたい。

 

鑑賞 >>>

 題詞に「草香山の歌」とあります。「草香山」は生駒山の西側一帯で、難波と大和を結ぶ道中にある山。左注に「作者の微(いや)しきによりて、名字を顕(あらは)さず」とあり、この巻の歌はすべて都の廷臣の歌のみであり、それとの釣合いがとれないために「顕さず」としたようです。作歌の年代からここに置くべきものとしたらしく、わざわざこうした断りを添えているのは、編者がこの歌を捨てるに忍びなかったと見えます。

 「おしてる」は「難波」の枕詞。「うちなびく」は「草香山」の枕詞。「馬酔木」の「あし」を、同音の「悪し」に続け、その序詞としています。「悪しからぬ」は悪しくない、やさしい。「君」はふつう女性から男性を指す語ですが、ここでは男性から身分の高い女性あるいは身分の高い男性に向けた歌のようです。