訓読 >>>
咲く花もをそろはうとしおくてなる長き心になほ及(し)かずけり
要旨 >>>
咲く花は色々ですが、せっかちに咲く花はあまり好きになれません。ゆっくり咲く花の、息の長い変わらぬ心には及びません。
鑑賞 >>>
大伴坂上郎女の歌。「をそろ」は、せっかち、早熟、軽率、ここでは早咲きの意。「うとし」は親しくない。「おくて」は遅咲き、晩生。遅咲きの萩を讃えて詠んだ歌ですが、ただちに男女関係が連想される歌であり、国文学者の窪田空穂は「ある年齢に達した聡明な女性の心というべきである。安らかで、冴えた歌である」と評しています。女性の皆さま方におかれましては、やはりせっかちな男はお嫌いでしょうか?
和歌の修辞技法
◆枕詞
序詞とともに万葉以来の修辞技法で、ある語句の直前に置いて、印象を強めたり、声調を整えたり、その語句に具体的なイメージを与えたりする。序詞とほぼ同じ働きをするが、枕詞は5音句からなる。
◆序詞(じょことば)
作者の独創による修辞技法で、7音以上の語により、ある語句に具体的なイメージを与える。特定の言葉や決まりはない。
◆掛詞(かけことば)
縁語とともに古今集時代から発達した、同音異義の2語を重ねて用いることで、独自の世界を広げる修辞技法。一方は自然物を、もう一方は人間の心情や状態を表すことが多い。
◆縁語(えんご)
1首の中に意味上関連する語群を詠みこみ、言葉の連想力を呼び起こす修辞技法。掛詞とともに用いられる場合が多い。
◆体言止め
歌の末尾を体言で止める技法。余情が生まれ、読み手にその後を連想させる。万葉時代にはあまり見られず、新古今時代に多く用いられた。
◆倒置法
主語・述語や修飾語・被修飾語などの文節の順序を逆転させ、読み手の注意をひく修辞技法。
◆句切れ
何句目で文が終わっているかを示す。万葉時代は2・4句切れが、古今集時代は3句切れが、新古今時代には初・3句切れが多い。
◆歌枕
歌に詠まれた地名のことだが、古今集時代になると、それぞれの地名が特定の連想を促す言葉として用いられるようになった。