大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

味飯を水に醸みなし・・・巻第16-3810

訓読 >>>

味飯(うまいひ)を水に醸(か)みなし我(わ)が待ちし効(かひ)はさね無(な)し直(ただ)にしあらねば

 

要旨 >>>

おいしいご飯を醸(かも)してお酒をつくって待っていましたが、全く甲斐がありませんでした。あなたが直接来るわけではないので。

 

鑑賞 >>>

 夫を恨む女の歌。左注に「この歌には言い伝えがある」として、次のような説明があります。「昔、娘子がいた。夫と別れ別れになって恋い続けながら何年かが過ぎたとき、夫は他の女を妻にして、本人は逢いに来ず、ただ贈りものだけをよこしてきた。そこで娘子はこの恨みの歌を作って、返事として送ったという」

 「味飯」は、味のよい飯。「水に醸みなし」の「水」は酒で、酒を醸造して。もっとも原始的な酒の製法は「口醸み」とされ、水に漬して柔らかくした米を口でよく噛み、唾液の作用で糖化させ、容器に吐き入れたものを、空気中の酵母によって発酵させていたことから、このように言っています。ました。「かひ」は、効果。「さねなし」は、少しもない。「直に」は、直接に。酒は元来、祓い清め祝福して作られるものでしたが、ここではせっかく用意した待酒が無駄となり、人の心の澱(おり)を貯めた酒となっています。