訓読 >>>
味飯(うまいひ)を水に醸(か)みなし我(わ)が待ちし効(かひ)はさね無(な)し直(ただ)にしあらねば
要旨 >>>
おいしいご飯を醸(かも)してお酒をつくって待っていましたが、全く甲斐がありませんでした。あなたが直接来るわけではないので。
鑑賞 >>>
夫を恨む女の歌。左注に「この歌には言い伝えがある」として、次のような説明があります。「昔、娘子がいた。夫と別れ別れになって恋い続けながら何年かが過ぎたとき、夫は他の女を妻にして、本人は逢いに来ず、ただ贈りものだけをよこしてきた。そこで娘子はこの恨みの歌を作って、返事として送ったという」
「味飯」は、味のよい飯。「水に醸みなし」の「水」は酒で、酒を醸造して。もっとも原始的な酒の製法は「口醸み」とされ、水に漬して柔らかくした米を口でよく噛み、唾液の作用で糖化させ、容器に吐き入れたものを、空気中の酵母によって発酵させていたことから、このように言っています。ました。「かひ」は、効果。「さねなし」は、少しもない。「直に」は、直接に。酒は元来、祓い清め祝福して作られるものでしたが、ここではせっかく用意した待酒が無駄となり、人の心の澱(おり)を貯めた酒となっています。