大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

ひさかたの雨の降る日を・・・巻第12-3125~3126

訓読 >>>

3125
ひさかたの雨の降る日を我(わ)が門(かど)に蓑笠(みのかさ)着(き)ずて来(け)る人や誰(た)れ

3126
巻向(まきむく)の穴師(あなし)の山に雲(くも)居(ゐ)つつ雨は降れども濡(ぬ)れつつぞ来(こ)し

 

要旨 >>>

〈3125〉雨が降っている日に、蓑笠も着けずに、我が家の門口に来ている人はどなたでしょうか。

〈3126〉巻向の穴師の山に雲がかかっていて、雨は降るけれども、濡れながらやって来きました。

 

鑑賞 >>>

 問答歌(問いかけの歌と、それに答える歌によって構成される唱和形式の歌)。3125は女の歌、3126はそれに返した男の歌。3125の「ひさかたの」は「天」にかかかるのを「雨」に転じさせて枕詞としているもの。「来る人や誰」の「来(け)る」は「来たる」の古語で、来ているのは誰であろうか。他の誰でもない夫だと知って言っている語で、雨具もなくやって来た夫の姿に感激しています。3126の「巻向の穴師の山」は、奈良県桜井市北部の山で、巻向の山の中の一つ。「雲居つつ」は、雲がかかっていて。男の歌は、女の歌に比べて落ち着いた趣きです。

 

 

 

巻第11と第12

 巻第11と第12は「古今相聞往来歌類」という名が付いていて、巻第11が上巻、第12が下巻という構成になっています。各巻のそれぞれの部立ては以下の通りになっています。

(巻第11:古今相聞往来歌類上巻)
(1)旋頭歌   15首(柿本人麻呂歌集の歌・古歌集)
(2)正述心緒  47首(柿本人麻呂歌集の歌)
(3)寄物陳思  94首(柿本人麻呂歌集の歌)
(4)問答      9首(柿本人麻呂歌集の歌)
(5)正述心緒   104首
(6)寄物陳思   193首
(7)問答      20首
(8)比喩       13首

(巻第12:古今相聞往来歌類下巻)
(1)正述心緒  10首(柿本人麻呂歌集の歌)
(2)寄物陳思  14首(柿本人麻呂歌集の歌)
(3)正述心緒   100首
(4)寄物陳思   193首
(5)問答      26首
(6)羇旅發思    53首
(7)悲別歌    31首
(8)問答     10首

 巻第11・12の歌は、巻第13と同じく全て「作者未詳歌」で、詞書もなく配列されている巻です。このためもあって、作成年代は、研究者の間でも確定していません。

『万葉集』掲載歌の索引

『万葉集』の時代背景