大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

紐の片方ぞ床に落ちにける・・・巻第11-2356

訓読 >>>

高麗錦(こまにしき)紐(ひも)の片方(かたへ)ぞ床(とこ)に落ちにける 明日の夜(よ)し来なむと言はば取り置きて待たむ

 

要旨 >>>

結んだはずの高麗錦の紐の片方が床に落ちていました。明日の夜、また来て下さるなら取って置きますけど。

 

鑑賞 >>>

 『柿本人麻呂歌集』からの旋頭歌1首で、女から男への軽い脅かしの歌です。逢瀬を楽しんだ翌朝、愛を確かめ合って結んだはずの紐が外れて床に落ちていた。それも高麗錦の贅沢品。裕福でプレイボーイらしい相手に対し、やんわりと証拠品?として持っているわと言っています。

 「高麗錦」は、高麗から伝来した錦あるいは高麗風の錦で、珍重されていました。「紐」は衣の上紐で、両方に着けてあって胸元で結ぶもの。「片方ぞの「ぞ」と「明日の夜し」の「し」は強意。