大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

恋ひ恋ひて逢へる時だに・・・巻第4-661

訓読 >>>

恋ひ恋ひて逢へる時だに愛(うつく)しき言(こと)尽くしてよ長くと思はば

 

要旨 >>>

恋して恋して、やっと逢えた時くらい、ありったけの言葉を言い尽くして下さい。これからも二人の仲を長く続けようと思うなら。

 

鑑賞 >>>

 ようやく夫に逢うことのできた夜の訴えの風情の歌ですが、これは大伴坂上郎女が、次女の坂上二嬢(さかのうえのおといらつめ)に代わって、娘の相手の大伴駿河麻呂(おおとものするがまろ)に贈った歌とされます。いずれにせよ、さまざまな恋を経験してきた女でないといえないような言葉であり、作家の故・田辺聖子さんは、この歌を次のように評しています。

「複雑な思いが流麗に、いささかの苦渋のあともとどめず、まるで耳元でささやきを聞くごとく、ひといきに歌いあげられている。それは坂上郎女が、時にむくわわれぬ恋、人に知らえぬ恋に苦しんで、心ざま深く、人生を奥行きのあるものにしていたからであろう」