大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

あしひきの山谷越えて・・・巻第17-3915

訓読 >>>

あしひきの山谷(やまたに)越えて野づかさに今は鳴くらむうぐひすの声

 

要旨 >>>

山や谷を越えてきて、今ごろ野の丘で鳴いているのだろう、ウグイスのあの鳴き声をきいていると。

 

鑑賞 >>>

 題詞に「山部宿祢明人(やまべのすくねあかひと)が春の鶯を詠める歌」とありますが、山部赤人の作だといわれています。当時は、訓みを主として、文字には拘らなかったための書き方のようです。「あしひきの」は「山」の枕詞。「野づかさ」は、野にある小高い所。「らむ」は、現在推量の助動詞。

 斎藤茂吉は、「一般的な想像のようにできている歌だが、不思議にも浮かんでくるものが鮮やかで、濁りのない清淡ともいうべき気持ちのする歌である」と評し、また、「巻17の歌をずうっと読んできて、はじめて目ぼしい歌に逢着したと思って作者を見ると赤人の作である。赤人の作中にあってはさほどでもない歌だが、その他の人の歌の中にあると斯くのごとく異彩を放つ」とも言っています。