大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

向つ峰に立てる桃の木・・・巻第7-1356

訓読 >>>

向(むか)つ峰(を)に立てる桃(もも)の木ならむやと人ぞささやく汝(な)が心ゆめ

 

要旨 >>>

向こうの高所に立っている桃の木は、実などなるものかと人が噂している。尻込みなどしてはならないぞ。

 

鑑賞 >>>

 作者未詳歌。「向つ峰」は向かいの丘。「立てる桃の木」は実のなる意で、恋が成就することの譬え。男が、自分と関係を結んでいる女について、周りの人が、二人の仲が成就するはずがないと噂しているのに対して、女に警告した言葉です。

 当時の桃は、現代のように品種改良された甘い果実とは違い、実は小ぶりで酸っぱかったといいます。もっぱら種が、新陳代謝を促し、血行をよくする漢方薬の一種として珍重され、信濃国では桃園で収穫した種を宮内省に納入し、宮中でも栽培されていました。