訓読 >>>
時雨(しぐれ)の雨(あめ)間(ま)なくな降りそ紅(くれなゐ)ににほへる山の散らまく惜(を)しも
要旨 >>>
しぐれ雨よ、そんなに絶え間なく降らないでくれ。紅に色づいた山の紅葉が散ってしまうのが惜しいではないか。
鑑賞 >>>
左注に「冬十月(天平11年10月)、皇后の宮(光明皇后)の維摩講(ゆいまこう)の結願の日に、大唐・高麗等の種々の音楽を供養し、そのときこの歌を歌った。琴を弾いたのは市原王(いちはらのおおきみ)、忍坂王(おさかのおおきみ:後に姓(かばね)大原真人赤麻呂を賜わった〉、歌子(歌い手)は田口朝臣家守(たぐちのあそみやかもり)、河辺朝臣東人(かわへのあそみあずまひと)、置始連長谷(おきそめのむらじはつせ)など十数人だった」旨の記載があります。
維摩講は維摩経を講ずる法会で、光明皇后の祖父・藤原鎌足の70周忌の供養のため、皇后宮で営まれました。維摩経を講ずるのは僧侶ですが、この唱歌が琴にあわせて歌子(うたびと)の十数人によって唱われたようです。和歌が仏教にも取り入れられたという、文化的な発展が窺えます。
「間なくな降りそ」の「な~そ」は禁止。「にほへる」は、鮮やかに色づいている。
各巻の主な作者
巻第1
雄略天皇/舒明天皇/中皇命/天智天皇/天武天皇/持統天皇/額田王/柿本人麻呂/高市黒人/長忌寸意吉麻呂/山上憶良/志貴皇子/長皇子/長屋王
巻第2
磐姫皇后/天智天皇/天武天皇/藤原鎌足/鏡王女/久米禅師/石川女郎/大伯皇女/大津皇子/柿本人麻呂/有馬皇子/長忌寸意吉麻呂/山上憶良/倭大后/額田王/高市皇子/持統天皇/穂積皇子/笠金村
巻第3
柿本人麻呂/長忌寸意吉麻呂/高市黒人/大伴旅人/山部赤人/山上憶良/笠金村/湯原王/弓削皇子/大伴坂上郎女/紀皇女/沙弥満誓/笠女郎/大伴駿河麻呂/大伴家持/藤原八束/聖徳太子/大津皇子/手持女王/丹生王/山前王/河辺宮人
巻第4
額田王/鏡王女/柿本人麻呂/吹黄刀自/大伴旅人/大伴坂上郎女/聖武天皇/安貴王/門部王/高田女王/笠女郎/笠金村/湯原王/大伴家持/大伴坂上大嬢
巻第6
笠金村/山部赤人/車持千年/高橋虫麻呂/山上憶良/大伴旅人/大伴坂上郎女/湯原王/市原王/大伴家持/田辺福麻呂
巻第7
作者未詳/柿本人麻呂歌集
巻第8
舒明天皇/志貴皇子/鏡王女/穂積皇子/山部赤人/湯原王/市原王/弓削皇子/笠金村/笠女郎/大原今城/大伴坂上郎女/大伴家持
巻第9
柿本人麻呂歌集/高橋虫麻呂/田辺福麻呂/笠金村/播磨娘子/遣唐使の母
巻第10~13
作者未詳/柿本人麻呂歌集
巻第14
作者未詳
巻第16
穂積親王/境部王/長忌寸意吉麻呂/大伴家持/陸奥国前采女/乞食者
巻第17
橘諸兄/大伴家持/大伴坂上郎女/大伴池主/大伴書持/平群女郎
巻第18
橘諸兄/大伴家持/大伴池主/田辺福麻呂/久米広縄/大伴坂上郎女
巻第19
大伴家持/大伴坂上郎女/久米広縄/蒲生娘子/孝謙天皇/藤原清河
巻第20
大伴家持/大原今城/防人等