訓読 >>>
夕されば物思(ものも)ひ益(ま)さる見し人の言問(ことと)ふ姿(すがた)面影(おもかげ)にして
要旨 >>>
夕方になると物思いがまさってきます。お逢いしたあなたが話しかけてくださった姿が面影となって現れてくるので。
鑑賞 >>>
笠郎女(かさのいらつめ)が大伴家持に贈った29首のうちの1首です。「夕されば」は、夕方になれば。「見し人」は、性的交渉をもった愛人の意で、家持のこと。「言問ふ」は、言葉をかける、尋ねる。「夕されば物思まさる」のは、夕方が男が訪ねてくる「ヨバヒ」の時間だったからです。恋する身にとっては、二人でいた時の、相手の何でもない言葉や仕草さえも、心に残って忘れられないもの。郎女は、あの日、あなたが私に話しかけてくださった、その時のお顔と口もとのあたりが浮かんできて・・・と、切なくも具体的に恋の実感をうったえています。
恋する身にとっては、二人でいた時の、相手の何でもない言葉や仕草さえも、心に残って忘れられないもの。皆さまにも経験がおありでしょう。憚りながら不肖私にもございます。郎女は、あの日、あなたが私に話しかけてくださった、その時のお顔と口もとのあたりが浮かんできて・・・と、切なくも具体的に恋の実感をうったえています。「面影」は、目に浮かぶ人の姿。見ようと思って見るものではなく、向こうから勝手にやってきて仕方がないもの。