訓読 >>>
701
はつはつに人を相(あひ)見ていかにあらむいづれの日にかまた外(よそ)に見む
702
ぬばたまのその夜(よ)の月夜(つくよ)今日(けふ)までに我(あ)れは忘れず間(ま)なくし思へば
要旨 >>>
〈701〉ほんのちょっと関係を持って、いつの日にかまた、よそながらでもお見かけすることがありましょうか。
〈702〉あの夜の美しい月が、今日まで私は忘れらることができず、絶え間なく思い続けています。
鑑賞 >>>
河内百枝娘子(こうちのももえおとめ:伝未詳)が大伴家持に贈った歌です。「はつはつに」は、わずかに、ほんのちょっと。「相見て」は男女関係を持ったことを意味します。「外に」は関係のない状態で。702の「ぬばたまの」は「夜」の枕詞。「月夜」は「月の夜」ではなく「月」そのものを指します。家持を思う心を、その夜に見た月に転じて、忘れないと言っています。
家持と一たび関係を持ったものの、身分が甚だしく隔たっていたためか、再びは逢い難いとして、つつましくも純粋な訴えの気持ちをうたっています。家持の返歌はありません。