訓読 >>>
君が家に我(わ)が住坂(すみさか)の家道(いへぢ)をも我(わ)れは忘れじ命(いのち)死なずは
要旨 >>>
あなたの家に私が住む、その言葉の響きのように、あなたと住んだ住坂の家も家路も忘れはしません。命のある限りずっと。
鑑賞 >>>
柿本人麻呂の妻が、夫の住坂の家に同棲していることを喜び、感謝する気持ちを、誓いの言葉として述べている歌で、この歌の前にある人麻呂の3首(501~503)に応じています。「君が家に我が」は「住坂」を導く序詞。「住坂」は奈良県東部の伊勢道にある坂。
この時代の夫婦は、夫が妻の家に通うのがふつうで、後には夫の家へ迎えることもありましたが、やはり夫の家に同棲するのは特別なことであったようです。「家道をも」と言っているのは、はじめて夫の家へ移って来た時の道の記憶を言っているのでしょうか。
なお、人麻呂の妻は、歌に出ているだけで軽娘子、羽易娘子、依羅娘子がいますが、ここの妻が誰であるかは分かっていません。