大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

白玉は緒絶えしにきと・・・巻第16-3814~3815

訓読 >>>

3814
白玉(しらたま)は緒絶(をだ)えしにきと聞きしゆゑにその緒(を)また貫(ぬ)き我(わ)が玉にせむ

3815
白玉(しらたま)の緒絶(をだ)えはまこと然(しか)れどもその緒(を)また貫(ぬ)き人持ち去(い)にけり

 

要旨 >>>

〈3814〉あなたの大切な真珠の緒が切れてしまったと聞いたので、私が再び緒を通して、私の宝にいたしましょう。

〈3815〉真珠の紐が切れたというのは本当ですが、別の人が再び緒を通して、持っておいでになりました。

 

鑑賞 >>>

 左注に「この歌には言い伝えがある」として、次のような説明があります。あるとき娘子がいた。夫に棄てられ、あらためて他家の男に嫁いだ。そのとき別のある男がいて、娘子が再婚したのを知らずにこの歌(3814)を贈り届け、女の父母に結婚を申し込んだ。女の両親は、男がまだ詳しい事情を聞いていないのだなと思って、この歌(3815)を作って送り返し、女が再婚したことを明らかにしたという。

 3814の「白玉」は真珠で、娘子の譬え。「緒絶え」は、真珠に通していた緒が切れることで、夫婦関係が切れた譬え。「我が玉にせむ」は、わが妻にしようの譬喩。3815の「人」は、他の男。

 窪田空穂は、3814について「求婚の歌としては情熱のない事務的な言い方であるが、これはその親に申込んだものであり、親しい間柄などの関係からであろう。言い方のやすらかで、洗練されているのは、双方身分ある者だったからであろう」、また3815について、「実用性の歌で、それにふさわしく、気分を現わさず、平坦に、行き届いた言い方をしている」と述べています。