大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

見わたせば近き渡りをた廻り・・・巻第11-2379

訓読 >>>

見わたせば近き渡りをた廻(もとほ)り今か来(き)ますと恋ひつつぞ居(を)る

 

要旨 >>>

見渡すと、近い渡り場所なのに、回り道をしながらあなたがいらっしゃるのを、今か今かと待ち焦がれています。

 

鑑賞 >>>

 『柿本人麻呂歌集』から「正述心緒(ありのままに思いを述べた歌)」1首。「渡り」は、舟の渡し場にも言いますが、ここでは野の二つの場所の隔たりのこと。「た廻り」は行ったり来たりして、回り道をして。「今か来ます」の「か」は疑問。人目を避けて回り道をしてやって来る男を待っている歌、あるいは、先の見通せる近道のような恋ではなく、回り道をしてでもいつか必ず叶えたいという意味にもとらえられます。

 

相聞歌の表現方法

 『万葉集』における相聞歌の表現方法にはある程度の違いがあり、便宜的に3種類の分類がなされています。すなわち「正述心緒」「譬喩歌」「寄物陳思」の3種類の別で、このほかに男女の問と答の一対からなる「問答歌」があります。

正述心緒
「正(ただ)に心緒(おもひ)を述ぶる」、つまり何かに喩えたり託したりせず、直接に恋心を表白する方法。詩の六義(りくぎ)のうち、賦に相当します。

譬喩歌
物のみの表現に終始して、主題である恋心を背後に隠す方法。平安時代以後この分類名がみられなくなったのは、譬喩的表現が一般化したためとされます。

寄物陳思
「物に寄せて思ひを陳(の)ぶる」、すなわち「正述心緒」と「譬喩歌」の中間にあって、物に託しながら恋の思いを訴える形の歌。