大和の国のこころ、万葉のこころ

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あしひきの山橘の色に出でよ・・・巻第4-669

訓読 >>>

あしひきの山橘(やまたちばな)の色に出でよ語らひ継(つ)ぎて逢ふこともあらむ

 

要旨 >>>

山橘の紅い実のように、はっきりと気持ちを態度に出しなさい。そうすればやりとりを重ねていくうちに直接逢える機会もあるだろう。

 

鑑賞 >>>

 春日王(かすがのおおきみ)の歌。春日王は、志貴皇子の子、安貴王の父。養老7年(723年)従四位下天平17年(745年)に散位正四位下で没しました。巻第3-243の作者の春日王とは同名異人です。この歌は、ある女に王が贈った歌で、女は王に心を許してはいるものの、身分の隔たりがあったためか気持ちをなかなか表面に表さないため、それを改めよと言っています。

 「あしひきの」は「山」の枕詞。「山橘」は、常緑低木のヤブコウジの古名。夏に咲く小さな白い花はまったく目立たないのですが、冬になると真っ赤な実をつけます。この実を食べた鳥によって、種子を遠くまで運んでもらいます。「山橘の色に出でよ」は、山橘の実のことを言っており、「の」は、~のように。「色に出でよ」は、心を表面に表せよ。「語らひ継ぎて」は、人の噂が伝わって、あるいは、誰かが互いの消息を伝えて、などと解釈するものもあります。「逢ふこともあらむ」の「あらむ」は、推量。

 

 

官人の位階

親王
一品~四品

諸王
一位~五位(このうち一位~三位は正・従位、四~五位は正・従一に各上・下階。合計十四階)

諸臣
一位~初位(このうち一位~三位は正・従の計六階。四位~八位は正・従に各上・下があり計二十階。初位は大初位・少初位に各上・下の計四階)

これらのうち、五位以上が貴族とされた。また官人は最下位の初位から何らかの免税が認められ、三位以上では親子3代にわたって全ての租税が免除されました。
さらに父祖の官位によって子・孫の最初の官位が決まる蔭位制度があり、たとえば一位の者の嫡出子は従五位下、庶出子および孫は正六位に最初から任命されました。

『万葉集』掲載歌の索引