訓読 >>>
あしひきの山橘(やまたちばな)の色に出でよ語らひ継(つ)ぎて逢ふこともあらむ
要旨 >>>
山橘の紅い実のように、はっきりと気持ちを態度に出しなさい。そうすればやりとりを重ねていくうちに直接逢える機会もあるだろう。
鑑賞 >>>
春日王(かすがのおおきみ)の歌。春日王は、志貴皇子の子、安貴王の父。養老7年(723年)従四位下、天平17年(745年)に散位正四位下で没しました。巻第3-243の作者の春日王とは同名異人です。この歌は、ある女に王が贈った歌で、女は王に心を許してはいるものの、身分の隔たりがあったためか気持ちをなかなか表面に表さないため、それを改めよと言っています。
「あしひきの」は「山」の枕詞。「山橘」は、常緑低木のヤブコウジの古名。夏に咲く小さな白い花はまったく目立たないのですが、冬になると真っ赤な実をつけます。この実を食べた鳥によって、種子を遠くまで運んでもらいます。「山橘の色に出でよ」は、山橘の実のことを言っており、「の」は、~のように。「色に出でよ」は、心を表面に表せよ。「語らひ継ぎて」は、人の噂が伝わって、あるいは、誰かが互いの消息を伝えて、などと解釈するものもあります。「逢ふこともあらむ」の「あらむ」は、推量。