訓読 >>>
一二(いちに)の目のみにはあらず五六三四(ごろくさむし)さへありけり双六(すごろく)のさえ
要旨 >>>
一二の目だけでなく、五、六に加え、三、四の目さえあるのだからな、双六のサイコロには。
鑑賞 >>>
長忌寸意吉麻呂(ながのいみきおきまろ)の歌8首とあるうちの1首で、「双六(すごろく)の賽(さい)の目を詠む」歌。長忌寸意吉麻呂は、柿本人麻呂と同時代の人ながら、生没年未詳。『万葉集』には、短歌14首が載っています。
双六は、万葉人も夢中になった遊びの一つで、白黒それぞれ12個の石を、2つのさいころを投げて出た数に応じて敵方に進めます。もともとはインドが発祥地で、中国を経由して日本に伝わってきました。ところが、『日本書紀』には、持統天皇の時代の689年に双六を禁止したという記述があり、698年にも禁止令が出されていて、その熱狂ぶりは尋常ではなかったようです。「双六のさえ」の「さえ」は、さいころ。
佐佐木信綱は、「目といえば二つと決まっているのに、双六の采は一、二の目どころではなく、一から六まであると、巧みにその数を詠みこんでおる。平凡な物を新たな感覚で眺め、そこに滑稽味を発見している」と述べています。